当記事では『千と千尋の神隠し』に込められた宮崎駿監督のメッセージを考察します。
宮崎駿監督は映画の意図について様々なインタビューで語っていますので、その情報を参考に考察します。
参考になれば幸いです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『千と千尋の神隠し』の3つのメッセージ
『千と千尋の神隠し』は様々な登場人物が複雑に絡み合ったストーリーです。
ここでは以下の3つのストーリーに分類し、宮崎駿監督のメッセージを考察します。
- 千尋のストーリー
- カオナシのストーリー
- 坊と湯婆婆のストーリー
以下、順番にご覧ください。
千尋のストーリー
『千と千尋の神隠し』の主人公はもちろん千尋です。
10歳の普通の女の子を主人公に、10歳の女の子をターゲットとした映画となっています。
どんくさくて、不器用な千尋ですが、油屋での経験を通じて「ジブリのヒロイン」らしいたくましさを身に着けていきます。
一見すると『千と千尋の神隠し』は「千尋の成長物語」ですが、これに関して宮崎駿監督は以下のようにコメントしています。
成長物語ではなくて、その子たちの中に本来あるものが、ある状況の中で溢れ出てくるという、そういう映画を作りたいって思ったんです。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
千尋の活躍は、千尋が成長したのではなく、本来持っていた力が溢れてきたものだと言うのです。
誰もが「物語の主人公」となり得る力を持っているのだというメッセージとも受け取れます。
一方で千尋が働く「油屋」は恐ろしい湯婆婆により経営されており、仕事内容もキツイものばかりです。
油屋は「風俗産業」や「スタジオジブリ」をモデルとして描かれていますが、これは厳しい社会の縮図です。
(「油屋」の詳細は以下の記事をご覧ください。)
宮崎駿監督は子どもたちに「社会のリアル」を見せようとしているのではないでしょうか。
「社会とは厳しい場所だけど、頑張れば輝ける」といった前向きなメッセージが感じられます。
「映画だから出来る」のではなくて、「私でも出来る」という感じの世界にしたかった。
「世界はこれ以上ややこしくはないよ」「オジサン嘘つきません」というつもりで作りました。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
千尋のストーリーを通じた宮崎駿監督のメッセージをまとめてみましょう。
- 子どもたちに向けたメッセージ
- 「輝ける力を秘めているよ」という前向きなメッセージ
- 社会は厳しいという現実を教えつつも、応援の意味を込めたメッセージ
カオナシのストーリー
『千と千尋の神隠し』で圧倒的な存在感を持っているのがカオナシです。
映画完成後に鈴木敏夫プロデューサや宮崎駿監督は「これはカオナシの映画だ」と語っています。
(以下は鈴木敏夫プロデューサーのインタビューより)
フイルムを全部通して見た時、宮さんが言ったんです。「これはカオナシの映画だ」って。
僕はそんなこととうに気づいていたので、「当たり前じゃないですか」と。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
このカオナシは現代人の抱える問題「心の闇」のようなものをテーマにしたキャラクターです。
カオナシについて宮崎駿監督は以下のように語っています。
―現代の若者を表している印象を受けたのですが。
宮崎 僕は特にそう思って作ったわけじゃないです。カオナシという名前もお面があるだけで、あとは何を考えているのか、何をしたいのかわからない……表情もほとんど変わらないから、そういう名前にしただけなんです。でも本当に、ああいう誰かとくっつきたいけど自分がないっていう人、どこにでもいると思いますけどね。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
カオナシは「自分が無い」「誰かと一緒でないと安心できない」といった特徴を持っています。
要するに、確固とした居場所が無かったのです。
公式Twitterによると、このカオナシは「みんなの中にいる」ということです。
A:カオナシは神様ではありませんが、「みんなの中にカオナシはいる」と、当時宮﨑さんは発言しています。
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) January 7, 2022
カオナシの物語を通じて、宮崎駿監督は現代人の心の闇を浮き彫りにしているのではないでしょうか。
カオナシは物語の最後には自分の居場所を見つけることができました。
「自分が無い」「居場所が無い」という不安を自覚させ、前を向く応援の意味が込められているのかもしれません。(もしくは、現代への皮肉でしょうか・・・)
坊と湯婆婆のストーリー
坊と湯婆婆は主役ではありませんが、分かりやすいメッセージを感じます。
「千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)」に掲載された制作日誌では、湯婆婆と坊について以下のようにコメントされています。
過剰に愛情を注ぐあまり、坊はベビールームの中でしか生きられない。
(中略)
これは「子離れができない親と、引きこもりの少年」という社会問題と通底している。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より引用
この制作日誌の記載のとおり、湯婆婆と坊は様々な問題を抱えていました。
- 外は危険と教えられ、ベビールームの中だけで生活している
- 大量のおもちゃを与えられ、甘やかされて育っている
- 湯婆婆は坊を溺愛しているように見えて、実はしっかりと向かい合えていない(坊がネズミになっても気づくことができなかった)
過保護すぎる湯婆婆の元で育った坊でしたが、ネズミの姿となったことで様々な成長を見せました。
- 外の世界を知る
- 自分の足で歩けるようになる
(千尋の肩に乗るように促された時も、断って歩き続けた) - 単なるわがままではなく、湯婆婆に自分の意見を言えるようになった
かなり分かりやすい構成にはなっていますが、要するに「可愛い子には旅をさせよ」というわけですね。
湯婆婆は決して坊を愛していなかったわけではありません。
むしろ溺愛するあまり、「毒親」となってしまっていたわけです。
息子を愛するからこそ、手を離し自立させることが重要なのだと考えさせられるストーリーです。
『千と千尋の神隠し』のメッセージ まとめ
最後に『千と千尋の神隠し』で伝えたいことについて、簡単にまとめます。
- 千尋のストーリー
→社会の厳しさをありのまま伝える
→厳しい世の中だけど、あなたなら出来るという前向きなメッセージ - カオナシのストーリー
→現代人の不安を具現化する
→きっと居場所は見つかるという励ましのメッセージ - 坊と湯婆婆のストーリー
→愛するからこそ「可愛い子には旅をさせよ」というメッセージ
最後までお読みいただきありがとうございました。
当サイトではその他にも『千と千尋の神隠し』の様々な記事を扱っています。
ぜひ合わせてご覧ください。
『千と千尋の神隠し』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『千と千尋の神隠し』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
- 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
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『ハウルの動く城』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ - The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
編集:スタジオジブリ¥3,038 (2023/04/28 09:06時点 | Amazon調べ)ポチップ - 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
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独自インタビュー等、ここでしか知ることができない貴重な情報が掲載されています。
既に絶版となっており、プレミア価格がついている貴重な書籍です。
(当サイトも入手には苦労し、図書館でなんとか借りることができました)ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。