【千と千尋の神隠し】湯屋「油屋」は風俗産業?モデルや詳細設定を解説

【千と千尋の神隠し】湯屋「油屋」のモデルは?詳細設定を解説

当記事では『千と千尋の神隠し』の舞台である湯屋「油屋(あぶらや)」について解説します。

宮崎駿監督のこだわりの設定が盛り込まれています。

映画を見ているだけでは気づけない裏話も紹介しますので、参考になれば幸いです。

『千と千尋の神隠し』の裏設定については以下の記事でまとめていますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。

筆者のプロフィール
  • スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
  • 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
  • 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」

当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。

目次

油屋の特徴・設定

まずは以下の観点で、油屋の特徴を紹介します。

  • 八百万の霊々を癒すホワイト企業
  • 油屋は擬洋風で混沌とした建物
  • 従業員はカエル・ナメクジ

八百万の霊々を癒すホワイト企業

油屋は「八百万の神々を癒すお風呂屋さん」として描かれています。

一見すると従業員は湯婆婆にこき使われているように思えますが、その労働環境はかなりホワイトです。

  • お客様は「本物の神様」
  • 社宅あり(住み込み型)
  • 朝昼晩3食支給
  • 衣類支給
  • 社内には美容院等の生活に必要な施設あり

従業員の居住区域は様々な施設が用意されており、美術監督の武重さんはその様子を以下のように語っています。

キヨスクみたいな、昔ながらの「たばこ」って書いてある看板の店なんかもあります。

床屋については、美術スタッフがあの赤と青と白がクルクル動く床屋の看板を実際に動いて見えるように描きこんでいました。あとパーマ屋もあります。それは窓に横書きで「マーパ」って書いてあるだけなんですけど。

ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より

また、経営者の湯婆婆も怖い存在ではあるものの、トラブル時は前面に立って対応する優秀な上司です。

客層良し、労働環境良し、上司も優秀と、かなりのホワイト企業といえるのではないでしょうか。

油屋は擬洋風で混沌とした建物

千と千尋の神隠し-スタジオジブリ 場面写真より

独特な雰囲気を醸し出す油屋は「擬洋風」と呼ばれる造りとなっています。

宮崎駿監督いわく、「日本と西洋と竜宮城が混ざったもの」です。

湯屋は伝統的な意匠というより、実は擬洋風というべきものでして、日本と西洋と竜宮城がこんがらがったものです。こんがらがってるという意味では、日本的ともいえるんですが、立派なものじゃないんです。

あれを美しいとなんか思っていませんよ。僕は湯屋を俗悪にしようと思って描いてましたから。僕らの持っている混沌がそのまま出ている、いろんなものが同居しているそういう建物なんです。

ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より

不思議な雰囲気で美しくも見えますが、宮崎駿監督は「美しいもの」としては描いていません。

湯婆婆の悪趣味が全面に出た、何でもかんでもつめこんだ俗悪なものだというわけです。

『千と千尋の神隠し』の世界は一見すると和風の世界、もしくは中華風を感じる世界です。

一方で、湯婆婆は洋服を着ていたり、部屋に暖炉があったりと、いたるところに洋風の作りも感じられます。

このごちゃまぜの混沌とした世界が、『千と千尋の神隠し』の世界なのです。

従業員はカエル・ナメクジ

油屋で働く男たちは、みなカエルのような見た目をしています。

千と千尋の神隠し-スタジオジブリ 場面写真より

また湯女はみなナメクジのような見た目をしています。

千と千尋の神隠し-スタジオジブリ 場面写真より

この理由を問われた宮崎駿監督は、以下のように語っています。

ーその世界に住んでいる人たちをカエル男やナメクジ女にしたのはなぜですか?

宮崎 僕らの日常ってカエルやナメクジみたいなもんじゃないかと思っているんです。自分も含めて難しいことを言ってるカエルのようなものだと思っていますから。

ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より

少し真意がつかみづらいですが、別のインタビューでは以下のようにぶっちゃけていました。

湯屋にいるカエル男たちはね、背広を着ている日本のオジサンたちにソックリでしょう。

徳間社長の葬儀委員長をやらされて、挨拶している時に「次々と蛙が通るなあ」と思っていました。「ああ、これが総理大臣という蛙ですか」「これが外務大臣の蛙ね、なるほど」と。

蛙にしか見えなかったですね(笑)いや、申し訳ないけど。

千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より引用

東京の満員電車に乗れば感じますが、スーツを着たオジサン達はたしかに皆、似たように見えてしまいます。

宮崎駿監督はその感覚を油屋の従業員に反映させているのです。

また、スタジオジブリの公式Twitterは以下のようなツイートを投稿しています。

『千と千尋の神隠し』は千尋の目線で描いたストーリーなので、男性はみなカエルに見えており、先輩たちはナメクジに見えています。

一方で、リンをはじめとする下働きの女の子たちは、それぞれ人間に見えているのです。

ハク(竜)を蛇と考えると、油屋の従業員は三すくみの関係性になっています。

三すくみとは古いことわざで「蛇はなめくじをおそれ、なめくじは蛙(かえる)をおそれ、蛙は蛇をおそれること。 」を指しています。ハクが湯女を恐れているようには見えませんので、深い意味は無いと思われますが、登場人物は三すくみを参考にしたのかもしれませんね。

油屋に関する裏話

ここからは映画を見ているだけでは気づけない、油屋に関する裏話を紹介します。

以下の順番に解説します。

  • 従業員は契約に基づき働いている
  • 湯婆婆の御殿と従業員宿舎は繋がっていない
  • 油屋の事業は風俗産業
  • 油屋はスタジオジブリ

従業員は契約に基づき働いている

油屋は一見すると湯婆婆の恐怖政治です。

ただ実際はしっかりと従業員と契約書を結んでおり、両親を豚にされた千尋ですら、契約書を交わしています。

油屋は徹底的な契約主義で運営されており、釜爺の幻のセリフでその実態が分かります。

以下は本編ではカットされてしまったものの、絵コンテに書かれたセリフです。

釜爺「そのハンコがあれば湯屋の労働協約を変えられるんだ。そしたらここで働いているオレ達はみんな魔女のドレイにされてしまう」

千尋「わたしもう、ドレイかと思ってた」

釜爺「フン、オレ達はれっきとした労働者だ。自分で決めてここで働いているんだよ」

リンのセリフにも「おれいつかあの町へいくんだ。こんなところ絶対にやめてやる!」というものがあります。

従業員はれっきとした労働者で、いつでも辞められる立場というわけです。

湯婆婆の御殿と従業員宿舎は繋がっていない

契約に基づいているものの、湯婆婆の独裁政治であることは事実です。

従業員が暴動をおこし、湯婆婆に逆らう可能性はゼロではありません。

そのため、湯婆婆の御殿と従業員宿舎は繋がっていないのです。

従業員宿舎の真上にあるが、連絡通路はないようで、千尋が苦労するハメになる。

労働者の反乱を怖れる(?)あたり、正しい独裁者のあり方と言えよう。

ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より

千尋が血まみれのハクを追いかけ湯婆婆の部屋に向かう際は、このせいでかなりの遠回りを強いられました。

千と千尋の神隠し-スタジオジブリ 場面写真より

従業員は簡単には湯婆婆の部屋にたどり着けないようになっているのですね。

油屋の事業は風俗産業

湯婆婆が経営する油屋は「八百万の神々を癒す場所」と映画では語られます。

一見すると「銭湯」のようですが、実は神様たちのソープランド(風俗業)だという裏設定が存在します。

手っ取り早く物語のあらすじを解説する宮崎さんが「この映画は要するに、ソープランドに勤める娘の話ですね(笑)」と言っていた

千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より

10代の女の子をターゲットにしていると言いながらも、なぜ宮崎駿監督はソープランドを選んだのでしょうか。

宮崎駿監督は風俗産業こそが日本社会の縮図であると語っています。

子どもたちに社会の「リアル」を伝えるためには、ぴったりのテーマだったということでしょうか。

宮崎は湯屋について「今の世界として描くには何がいちばんふさわしいかと言えば、それは風俗産業だと思うんですよ。日本はすべて風俗産業みたいな社会になってるじゃないですか」と語っている。

ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より

なお、宮崎駿監督が風俗産業に注目したきっかけとなったのは、鈴木敏夫プロデューサーの話だったようです。

鈴木敏夫プロデューサーがその時のエピソードをインタビューで語っています。

僕はすっかり忘れていたんですが、企画を練っているとき、僕がキャバクラ好きの知り合いから聞いた話を宮さんにしたことがあったんです。(中略)

その話をヒントにして、宮さんは湯屋をキャバクラに見立てたストーリーを作ったというのです。

ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より

『千と千尋の神隠し』は一見するとお風呂屋さんですが、じっくり観察すると大浴場はありません。

油屋は銭湯ではないことが、こういった描写からも読み取れるようになっています。

ー湯屋には大浴場がありませんでしたが、その理由は?

宮崎 そりゃあ、色々いかがわしいことをするからでしょうね(笑)

ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より

油屋はスタジオジブリ

油屋が風俗産業であることが明らかになった際、「ジブリが社会問題をテーマにした!」と解説する声が多く上がりました。

実際にその前提で見ると、「両親を豚にされた女の子が、両親を救うために無理やりソープランドで働く話」とも見えるのです。

ただ実は、宮崎駿監督の狙いはそこではありません。

油屋は風俗産業ではあるものの、その真のモデルは「スタジオジブリ」だったのです。

宮崎駿監督は明確に「ジブリをモデルにした映画」と語っています。

鈴木敏夫プロデューサーを初め、僕も凶暴になることはしょっちゅうありますし、わめき散らすし頭も湯婆婆のようにでかいですし、若いスタッフにとってはそういう、自分の爺さんの年の人間が、血相変えて怒鳴ったら怖いですからね。

で、それだけで十分な悪役になると思うので、こういう、ジブリをモデルにした映画を作りつつあるわけです。

千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より

若いスタッフにとって、「スタジオジブリ」は恐ろしいところだというわけです。

この恐ろしい職場で働くことを想像したときに生まれたのが、『千と千尋の神隠し』です。

そこ(編注:スタジオジブリ)で働かないことにはどうしようもない立場の子が現れたら、どういう目にあうんだろうとリアルに考えてみた時に、この物語が出来てきたんです。

千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より

宮崎駿監督はスタジオジブリについて以下のように語っています。

  • ジブリは狭いけど、中は油屋のように複雑
  • 鈴木敏夫プロデューサーはでかい声でどなる
  • 宮崎駿監督も「何甘い夢見てんだよ」ってでかい声だす
  • みんなだいたいおっかない顔している
  • 取り付く島もない連中の中に入って自分の居場所を見つけて認めてもらうのは大変な努力がいる

スタジオジブリで居場所を見つけて一人前に働くのは「大変な努力」が必要だというわけです。

ただ、これはジブリに限ったことでしょうか。

おそらく社会で自立して働くということは、程度の差はあれどこも同じはずです。

宮崎駿監督は「油屋」の描写を通して、子どもたちに「世の中のリアル」を伝えているのです。

僕は今回「これが僕の知っている世の中だ」「君たちが出ていく世の中だ」と思ってこの映画を作ったんです。僕はウソをついて、きれい事を言って、今ここにある世界をその友人の娘たちに見せたいとは思わなかったんです。

ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より

お風呂屋さんに見える油屋は実は風俗産業で、そのモデルはスタジオジブリで、そしてそれは社会の縮図なのですね。

油屋のモデルの地

たてもの園子宝湯
たてもの園 子宝湯(撮影:まつぼくらぶ)

油屋のモデル後については、以下のように明かされています。

湯屋そのものは、以前、ジブリの社員旅行で行った四国の道後温泉の宿を参考にしていますが、それ以外にも日光の東照宮とか目黒雅叙園を参考にした部分がありますし、小金井市にある「江戸東京たてもの園」へ見学に行って、そこに移築されている様々な時代の建物から特徴を集めて作ったりもしています。

The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)より

油屋の参考となった場所

  • 四国の道後温泉
  • 日光の東照宮
  • 目黒雅叙園
  • 江戸東京たてもの園

特に「江戸東京たてもの園」については、ジブリの公式ホームページでも「大いに参考にした場所」として紹介されています。

江戸東京たてもの園は油屋だけではなく、釜爺の仕事場や海原電鉄の参考にもなっています。

以下の記事では実際に「江戸東京たてもの園」をたずねた際の情報をまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。

『千と千尋の神隠し』の記事執筆における参考書籍

まつぼくらぶでは『千と千尋の神隠し』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。

  • ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
  • ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
  • スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
  • The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
  • 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)

過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。

ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)

インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。

スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)

『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。

The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)

イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。

千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)

独自インタビュー等、ここでしか知ることができない貴重な情報が掲載されています。
既に絶版となっており、プレミア価格がついている貴重な書籍です。
(当サイトも入手には苦労し、図書館でなんとか借りることができました)

なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。

千と千尋の神隠し スタジオジブリ場面写真

当記事の拡散は大歓迎です

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