当記事では『もののけ姫』のヒロイン、サンについて紹介します。
サンの設定や裏話について、絵コンテやジブリ公式本等を踏まえて解説しますので、参考になれば幸いです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は映画「もののけ姫」を一度は見ている方向けに執筆しています。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『もののけ姫』のヒロイン!サンの基本情報
血まみれの姿で主人公アシタカの前に登場する、『もののけ姫』異色のヒロインがサンです。
サンの基本情報は以下の通りです。
本名 | サン |
年齢 | 15歳 |
特徴 | シシ神の森に住む、山犬に育てられた少女 |
声優 | 石田ゆり子 |
人間を強く憎んでおり、当初はアシタカにも敵意をむき出しにしていました。
敵意むき出しのサンが、次第に穏やかな表情になり、アシタカに心を許していく姿は『もののけ姫』の見どころのひとつです。
なお、森で育ったサンの身体能力は非常に高く、体も筋肉質に描かれています。
ヒロインだからと言って華奢なデザインにはしないのは宮崎駿監督のリアルを追求する姿勢の表れかもしれませんね。
※「森で育った割にムダ毛が無さすぎる!」というツッコミも一部目につきますが・・・笑
サンに関する詳細設定・裏話
サンは『もののけ姫』のヒロインで重要なキャラクターです。
ヒロインにしてはセリフは少なめですが、セリフからは読み取れない設定が多数存在します。
以下では、ジブリ公式本や過去の宮崎駿監督インタビューをもとに解説します。
サンは人間に捨てられ山犬に育てられた少女
映画の中でのモロの発言からわかる設定ですが、サンは人間に捨てられて山犬(モロ)によって育てられています。
モロ「黙れ小僧!おまえにあの娘の不幸がいやせるのか。森をおかした人間がわが牙をのがれるために投げてよこした赤子がサンだ…!人間にもなれず山犬にもなりきれぬ哀れで醜い可愛い我が娘だ!おまえにサンを救えるか!?」
サンの両親は、モロから逃れるために、赤子のサンを身代わりにしたというわけです。
サンの名前の由来は絵本『もののけ姫』の「三の姫」
映画『もののけ姫』の原案は、宮崎駿監督作の絵本『もののけ姫』です。
映画と絵本の内容は別物ですが、実はサンの名前の由来はこの絵本にあります。
絵本では「三の姫」と呼ばれる娘が主人公となっており、「サン」の名前は「三の姫」から取られているのです。
サンはアシタカ以外の人間と言葉を一言も交わさない
映画の中で、サンはアシタカ以外の人間と一言も言葉を交わしていないことにお気づきでしょうか。
サンは人間とは分かり合えない、話しても無駄だと思っているのでしょう。
ジブリ公式本にも、以下のように紹介されています。
サンはアシタカ以外の人間とは一言も言葉を交わしていない。シシ神の首を返すようにジコ坊を説得するアシタカに「話しても無駄だ」と言うサン。話してみて何とかしようとするアシタカとは正反対だ。人間に対する憎しみとあきらめが入り混ざった思いなのだろうか。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
アシタカの服を不器用にも直す優しさ
サンが見せる意外な一面がこっそりと描写されています。
アシタカの破れた服が、不器用なりにも修理されているのです。
実際にサンが裁縫する姿は描かれていませんが、状況的にサンによるものと考えられます。
以下のシーンでは、アシタカの胸の傷は癒えたものの、服に開いた穴は塞がっていません。
少し見えづらいですが、以下のシーンでは胸の穴が塞がっています。(荒々しく、不器用な縫い付けなのがサンらしいですね)
正確にはアシタカとサンが洞窟で一夜を過ごして以降、穴が塞がっています。
アシタカが眠っている間に、サンがこっそりと縫い付けたのではないでしょうか。
マニアックで細かい描写ですが、こういったところにサンの優しさ・アシタカへの想いが表れているのですね。
サンの仮面・顔の模様の意味
サンは戦いの場に臨む際、お面を被ります。
このお面については、公式本で以下のように解説されています。
(土面の解説)
土器の面は土偶などと共に呪術用として、縄文時代によく作られた。サンの土面は縄文人の遺したもの、あるいは森の神に捧げられたものではないだろうか。仮面を着けるという行為、そのものが一種の呪術性を帯びている。それは本来の自分を隠し、他の存在になることなのだ。人間でありながら人間を憎まざるを得ない二律背反を抱えるサンにとって、仮面は救いなのかもしれない。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
人間の姿である自分自身を否定したい気持ちが表れているのでしょう。
人間でありながら、山犬として育ったサンの辛い境遇が読み取れる行為です。
なお、当初は顔を全て覆う仮面でしたが、物語後半では、サンの口元が見えるお面になっています。
これはサンの心情の変化、少しずつ人間(アシタカ)に心を開いている様子を表していると考えられます。
ちなみにサンといえば、顔の赤い模様も特徴的です。
こちらはペイントではなく、刺青であることが公式本で明らかとなっています。
(刺青の解説)
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
サンにとっては刺青もまた仮面と同様、人間であることの枷を振り切るための工夫だったのだろうか。もし自分で掘ったのだとしたら・・・、それはあまりに傷ましい。それはサンの、決して流さぬ涙の代わりなのかもしれない。
お面を被り、刺青を掘り、毛皮を被り、牙の装飾を身に着けるサン。
憎い人間の姿を捨て、山犬になりたいと心から願っている、何とも言えない心情が伝わってきます。
サンは森の代表ではなく「現代の人間」の代表
サンの行動を見ていると、サンは「森の代表」として描かれていると感じる方は多いのではないでしょうか。
『もののけ姫』は自然と人間の対立を描いていて、サンは「自然」を象徴しているのだ、という解釈です。
しかしながらこれについては、宮崎駿監督が以下のように語っています。
サンは、自然を代表しているのではなくて、人間の犯している行為に対する怒りと憎しみを持っている。つまり今現代に生きている人間が人間に対して感じている疑問を代表しているんです。
ジブリの教科書10『もののけ姫』宮崎駿監督インタビューより
むしろサンは、多くの疑問を抱える現代人の立場というわけですね。
これについては『もののけ姫』の伝えたいメッセージを理解することが重要です。
『もののけ姫』のメッセージについては以下の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。
ちなみに、「森の命」を象徴しているキャラクターといえばコダマです。
コダマはトトロに成長するとも言われる不思議なキャラクターです。
詳細はぜひ以下の記事をご覧ください。
【都市伝説】サンはアシタカと洞窟で「やっている」?
ネット上でしばしば語られる都市伝説が、サンとアシタカが洞窟で一夜を過ごした際に、肉体関係にあるというものです。
評論家の岡田斗司夫さんが以下の内容を発信したことで広まりました。
- サンの無防備な寝顔と脚を見せているコンテを見てピンと来た鈴木敏夫は、「この時点で、2人はセックスしてますよね?」と宮崎駿監督に聞いた
- 鈴木敏夫が問い詰めた結果、宮崎さんは「そんなの、わざわざ描かなくてもわかりきってるじゃないですか!」と言った
こちらについては根拠がはっきりとしておらず、やや疑問の残る都市伝説です。
以下の記事では根拠を追求し、より深くこの都市伝説を考察していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
【都市伝説】サンの母親はエボシ?
サンを捨てた両親の名は明らかになっていませんが、母親はエボシではないかという説が存在します。
ジブリ公式に認めた説ではなく、あくまでも都市伝説ですが、以下が根拠として挙げられています。
- モロが異常なまでにエボシを敵視している
- 強気な性格や顔つきがサンとエボシは似ている
- たたら場を襲撃したサンをエボシは殺さなかった
正直、根拠としてはイマイチですね・・・
- エボシはたたら場のリーダーなので、モロが強く敵意を抱くのは自然
- 顔つきが似ているのは宮崎駿監督アニメならみんなそう
- 殺さなかったのではなく、アシタカが守ったのでは?
と、簡単に反論できてしまいます。
一方で、エボシにはかつて遊女として売られ、倭寇(海賊)の妻だったという裏設定が存在します。
こういった設定を踏まえると、エボシが過去に子どもを産んでいても不思議ではありません。
そして、その子がサンだった、という可能性も否定はできません。
とても15歳のサンの母親には見えない若いルックスのエボシですが、エボシの年齢は公式には明らかになっていません。
なかなか想像のしがいのある都市伝説ですね。
『もののけ姫』におけるサンの名セリフ
サンはセリフ自体が多いキャラクターではありませんが、ここでは2つの名セリフをピックアップします。
- 好きなところへ行き、好きに生きな
-
瀕死の状態のアシタカを見て、サンがヤックルに語り掛けたセリフです。
「生きろ」がキャッチコピーの『もののけ姫』において、サンが伝えた優しい「生きろ」のメッセージです。
- アシタカは好きだ。でも、人間を許すことはできない
-
サンの最後のセリフです。
アシタカには心を許しつつも、それでも人間は許せない葛藤が表れています。
このセリフについては宮崎駿監督が以下のように語っており、物語の重要なセリフです。
サンの最後の言葉は、答えが出せないままにアシタカに刺さったトゲなんです。そしてアシタカは、そのトゲとも一緒に生きていこうと思っている。あの後、アシタカはたたら場に住んで、サンは森に住むんでしょう。たたら場の理屈から言うと、生きていくためには木を切らなければならない。だけど、サンは切るなっていうでしょ。その度に突っつかれて生きていくんだな、アシタカは大変だなと思って(笑)
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
でも、それはまさにこれから生きていく人類の姿そのものなんですよ。
『もののけ姫』はメッセージ性の強い作品ですが、名言はどちらかといえば主人公のアシタカから生まれています。
アシタカについても以下の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。
サンの声優は女優の石田ゆり子さん
ジブリ作品はプロの声優起用が少ないことで有名ですが、サンの声優も女優の石田ゆり子さんが担当しています。
石田ゆり子さんの基本情報
名前 | 石田ゆり子 |
生年月日 | 1969年10月3日 |
本職 | 女優 |
主な声優出演 | おキヨ(平成狸合戦ぽんぽこ) 北斗美樹(コクリコ坂から) |
「棒読み」「下手」という批判もあるサンの声優ですが、この批判は的外れです。
音響監督の若林和弘さんが、過去のインタビューで以下のように語っています。
サンは激しく怒る時もあれば、かわいい表情を見せる時もある。その場面だけを考えたら”もっとメリハリのある演技でもいいんじゃないか″という意見もあったそうだ。
でも、あまりそれが突出してしまうと、”サンってそんなに器用な子なの?″ということになってしまう。
(中略)
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
感情表現という意味では、とても不器用な少女なんじゃないだろうか、ということがあったんです。
要するに、各場面での表現のうまさではなく、一貫してサンという人格を表現できる人、として石田ゆり子さんは起用されているのです。
宮崎駿監督自身、「石田ゆり子さんのサンをすっかり受け入れた」と語っているくらい、適任だったわけですね。(石田さん自身は、サンの役柄に大変苦労したと過去のインタビューで語っていましたが(笑))
なお、石田さんはカヤ(エミシの一族の村の村娘)の声優も同時に担当しています。
「アシタカの小刀問題」の2人の女性を石田ゆり子さんが担当しており、話題になることも多いです。
以上、サンについて紹介してきました。
当記事を見たうえで、ぜひもう1度『もののけ姫』を見て楽しんでくださいね。
『もののけ姫』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『もののけ姫』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の原作とされています。
※内容は映画と異なり、初期構想のイメージボードです。 - スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。