当記事では『もののけ姫』におけるたたら場のリーダー、エボシについて解説します。
「たたら場」は「シシ神の森」と対の関係で描かれる重要な要素です。
エボシの設定や裏話について、絵コンテやジブリ公式本等を踏まえて解説しますので、参考になれば幸いです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は映画「もののけ姫」を一度は見ている方向けに執筆しています。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『もののけ姫』の主要キャラ!エボシ御前の基本情報
エボシの基本情報は以下のとおりです。
本名 | エボシ |
年齢 | 不明 |
性格 | 冷静沈着 |
職業 | たたら場のリーダー |
声優 | 田中裕子 |
年齢は明らかになっていませんが、その所作からは落ち着いた大人の女性をイメージさせます。
一方で若く美しい女性にも見えますので年齢不詳の女性です。
たたら場のリーダーで、シシ神の森を破壊する「森の敵」として描かれています。
エボシ御前に関する詳細設定・裏話
『もののけ姫』はセリフからは読み取れない設定が多数存在します。
ジブリ公式本や過去の宮崎駿監督インタビューをもとに紹介します。
誰かに話したくなる裏設定もありますので、ぜひ知り合いに披露してみてくださいね。
弱者に手を差し伸べ、たたら場をまとめ上げている
本来の「たたら場」は屈強な男たちによる女人禁制の製鉄所です。
しかしエボシのたたら場は、むしろ女性が中心となって活躍しています。
深山の麓で、タタラ集団を率いる冷静にして沈着な女性。
山を削り、砂鉄を沸かし、鉄を打ち、石火矢をも創り出す。
売られた娘たちを買い取って、本来女人禁制のタタラ場で仕事を与えている。
社会からのはみ出し者をも、人として扱う徳を持ち、男どもにも娘たちにも敬われ、かつ慕われている。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
エボシは売られた娘たちを救い、仕事を与えているのです。
その他にも病気(ハンセン病)に苦しむ者に石火矢開発の仕事を与える等、弱者に寄り添った様子が読み取れます。
遠い地からフラフラとやってきたアシタカを受け入れたのも、その一環と言えるでしょう。
「森の敵」として描かれるエボシですが、たたら場の住人にとってはヒーローなのです。
明(中国)の石火矢を独自に加工
石火矢衆と、エボシやたたら場の女達が扱う石火矢はデザインが異なります。
これはエボシが独自に石火矢を加工しているためです。
エボシは明国製の石火矢に満足せず、独自に新型を開発させる。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
エボシの扱う石火矢は肩当てがあり、肩に乗せて使用するのが分かりやすい特徴です。
女性でも扱えることを重視したものなのでしょう。
『もののけ姫』に登場する石火矢は中国(明)に由来するとされています。
日本における鉄砲伝来の歴史は、種子島に漂着したポルトガル船に由来すると考えるのが一般的です。
ただ、中国や朝鮮では13世紀頃には鉄砲の開発・普及は進んでいたという見方もあるのです。
室町から江戸初期にかけては倭寇(海賊)の海外進出も盛んだったことから、中国(明)から鉄砲が伝来しているという設定は歴史上も十分ありうる設定です。
倭寇(海賊)の妻だった過去を持つ
弱者に手を差し伸べるエボシですが、実はエボシ自身も辛い過去を持っています。
『もののけ姫』制作現場に密着取材した『「もののけ姫」はこうして生まれた』の中で、バック・ヒストリーのメモが明かされていました。
辛苦の過去から抜け出した女。海外に売られ、倭寇の頭目の妻となり、頭角を現し、ついに頭目を殺し、その金品を持って自分の故郷に戻ってきた。
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
なかなか壮絶な裏設定ですよね。
エボシ自身も売られた女であり、倭寇(海賊)の妻となっていたのです。
自身が辛い経験を味わったからこそ、たたら場の住人への優しさなのかもしれませんね。
辛い過去をはねのけ、自分の理想の国を作ることがエボシの野望なのです。
侍の支配から自由な、強大な自分の理想の国を作ろうと考えている。シシ神の森は誰の領地でもなく、シシ神に属している。その地を手に入れ、刃向かう猪神や山犬を退治すれば、ただの製鉄民ではない権力を手に入れうる場所にいる
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
なお、石火矢を入手したのも、この倭寇と接触していたことが大きいと考えられます。
作中唯一の「近代人」で悪魔的
「森の敵」であるエボシについて、宮崎駿監督は「近代人(現代人)である」と表現しています。
この人は、もう近代人ですから、この映画唯一の。だから悪魔なんです。近代人ていうのは、基本的に悪魔なんです。自然界にとっては。
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
この内容だけを見ると「近代人=自然破壊」と読み取れてしまいますが、そう単純な話ではありません。
この人もこう、自分の運命、見定めている人ですから、あの、格好良く描いといて下さい。現代人ですから。
魂の救済を求めてないんですよ。
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
宮崎駿監督はエボシを単純な悪役として描きたいわけではないのです。
エボシはたたら場の発展のために、森の破壊は必須だと考えているでしょう。
その一方で、森の破壊が生み出す悲劇についても理解しています。
こうした答えのない葛藤は、『もののけ姫』が描いているテーマの一つです。
ぜひ、以下の記事と合わせて考えてみてください。
エボシは森を破壊した結果、自分に降り注ぐであろうことを覚悟し、受け入れています。
それはモロに腕を嚙みちぎられたときの態度にも表れているのではないでしょうか。
一切動揺する様子を見せず、一種の悟りの境地のようにも見えますよね。
エボシは死んでいた可能性があった?
結果的には腕を失うことで落ち着いたものの、実は「エボシが死ぬ」という可能性がありました。
鈴木敏夫プロデューサーが度々インタビューで語っています。
「宮さん、絵コンテを読み直してみたんですけど、やっぱりエボシ御前を殺すべきじゃないですか」
「鈴木さんもそう思ってた?」
(中略)
それから数日。瞬く間に新しい絵コンテができあがりました。
宮さんは神妙な顔をして、「鈴木さん、悪いけどエボシは殺せないよ」と言います。見ていくと、代わりに腕がもぎ取られるシーンがある。
ジブリの教科書10『もののけ姫』より抜粋引用
当初はエボシが腕を失うシーンも、たたら場の炎上もストーリーにありませんでした。
物足りなさを感じた鈴木さんが、宮崎駿監督に提案したことで最後のストーリーが生まれたそうです。
【都市伝説】エボシとサンは親子関係?
時々ネットで出回る説ですが、サンがエボシの娘であるという設定です。
これはあくまでも都市伝説で、明確な根拠はありません(個人的には違うと思っています)
この設定の考察については「サン」を解説した記事で触れていますので、ぜひこちらもご覧ください。
【都市伝説】エボシは後醍醐天皇の妻?
エボシとサンの親子関係とともにネットを騒がせたのが、エボシの夫が後醍醐天皇という説です。
つまり、エボシは後醍醐天皇の子どもを生み、森に子どもを捨てたというわけです。
・・・が、これも根拠のない都市伝説でしょう。
後醍醐天皇(1288年~1339年)といえば鎌倉時代~南北朝時代の人物です。
一方で、『もののけ姫』の舞台は室町時代(1336〜1568年)の後期とされており、そもそも時代が違うのです。
あまりにもお粗末な説で、出所すらはっきりしませんが、こちらは明確に「デマ」と言えるでしょう。
『もののけ姫』におけるエボシ御前の名セリフ
たたら場のリーダーであるエボシは、力のある名セリフも多いです。
ここでは特に注目すべき3つの名セリフを紹介します。
- 甲六、よく帰って来てくれた。すまなかったな。
-
モロとの戦いの冷徹な人物像とのギャップを感じさせるセリフです。
単なる悪役ではなく、何か事情のある、深みのある人物であると感じさせます。
- さかしらにわずかな不運を見せびらかすな
-
たたら場を襲ったサンを守るアシタカが正論を語るのに対して、エボシが放った一言です。
エボシの過去の辛い設定を知ったあとにこのシーンを目にすると、見方が変わるのではないでしょうか。
アシタカのような言葉が大キライなエボシ。イカリも恨みも憎悪もたっぷり味わってきたエボシには、ガマンならない。
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用 - みんなはじめからやり直しだ。ここをいい村にしよう
-
全てを失ったものの、最後を締める前向きなセリフです。
『もののけ姫』は決してハッピーエンドではないかもしれませんが、確かに前を向いて歩きだしたことが感じられる名セリフです。
エボシ御前の声優は田中裕子さん
エボシの声優を務めたのは、演技派女優の田中裕子さんです。
スタジオジブリ作品はプロの声優を起用するケースが少ないですが、田中さんも本職は女優です。
田中裕子さんの基本情報
名前 | 田中裕子 |
生年月日 | 1955年4月29日 |
本職 | 女優 |
主な声優出演 | クモ(ゲド戦記) |
強いこだわりを持ってエボシのアフレコに臨んでおり、最後のセリフ「みんなはじめからやり直しだ。ここをいい村にしよう」には1時間以上もかかったことがロマンアルバムの中のインタビューで語られています。
以上、エボシについて紹介しました。
映画だけでは読み取れない裏設定を踏まえると、映画の見方も変わるのではないでしょうか。
ぜひ、当記事の情報を踏まえてもう1度『もののけ姫』を楽しんでくださいね。
『もののけ姫』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『もののけ姫』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
ポチップ - 絵本 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の原作とされています。
※内容は映画と異なり、初期構想のイメージボードです。ポチップ - スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。