『やどさがし』は、ジブリ美術館で上映される短編アニメーションです。
表現技法がかなり独特で、その後の宮崎駿作品(風立ちぬや毛虫のボロ)にも影響を与えている作品です。
当記事では、『やどさがし』について内容や実際に見た感想、制作秘話について紹介します。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事はネタバレを含みますのでご注意ください。
『やどさがし』は個性的な衝撃作ですので、まだ見たことが無い方は事前知識なしで見るのがおすすめです。
『やどさがし』のあらすじ・見どころ
『やどさがし』のあらすじは、ジブリ美術館のホームページ上では以下のように記載されています。
元気な女の子のフキは、新しい家をさがしに旅に出ます。大きなリュックにいるものはみんなつめて、さあ出発。
次々と出会う奇妙なものたちをフキはどうやって切り抜けていくでしょう。
セリフがほとんどなく、すべての音声(音楽・効果音・セリフ)を人の声だけで表現します。
また、画面に場面に沿ったものの動きや様子・音をあらわす文字が現れるという珍しい作品です。
ジブリ美術館ホームページより引用
『やどさがし』の基本情報
原作・脚本・監督 | 宮崎駿 |
公開年 | 2006年 |
上映時間 | 約12分 |
音が文字になって現れる表現が面白い
『やどさがし』では音が文字として表現されています。
「音が文字・・?」とピンと来ない方も多いと思いますが、百聞は一見に如かず、以下のポスターをご覧ください。
今月のえいが「やどさがし」のポスターです。さわさわ。ぬうう。 pic.twitter.com/zyB5ohtilb
— 三鷹の森ジブリ美術館 (@GhibliML) January 9, 2022
「さわさわ」と木々が揺れる音や、「カアアア」とカラスが鳴く声などが、文字でそのまま描かれているのです。
上映前のスタッフさんの語りの中では、「大人ならみんな見たことがある表現方法」だと紹介されていました。
おそらく漫画のことを指しているのでしょう。面白い表現方法です。
宮崎駿監督はパンフレットの中で以下のように語っています。
画面にとつぜん字が現れたら、見る人は混乱していやになっちゃうでしょう。では、はじめから最後まで全部文字を使ったらどうなるんだろう。文字が出たら、日本語が判らない人は困るだろうか。でも、漫画を見たときの経験だと、文字も絵と同じで、画面の印象を決める大きな力があるんだけど・・・
『やどさがし』パンフレットより引用
効果音も全て人間の声で表現
フキの声優はシンガーソングライターの矢野顕子さん、効果音はタモリさんが担当しています。
注目すべきは全ての効果音が人間の声(タモリさんの声)で表現されているという点です。
以下、宮崎駿監督のコメントです。
子供の頃はみんな(ほとんどみんな)絵を描きながら自分で声を出して、音楽も効果音もセリフも全部やっていたりするのだから、いっそ全部人の声でやったらどうなんだろう。音楽も効果音も全部やっちゃう。急になんだかせいせいする気がしてきます。こうして『やどさがし』ははじまりました。
『やどさがし』パンフレットより引用
効果音を人の声で表現すると言えば、2014年に公開された宮崎駿監督の長編映画『風立ちぬ』が有名です。
その他、ジブリ美術館で上映される短編アニメーション『毛虫のボロ(2018年)』でも採用されている手法です。
『やどさがし』は『風立ちぬ』や『毛虫のボロ』よりも知名度は低いですが、それら有名作品の原点ともいえる作品なのです。
物怖じしない主人公・フキ
『やどさがし』はその表現方法に注目が集まりがちな作品ですが、主人公のフキも魅力的です。
矢野顕子さんの演じるフキの、日本語ではない何とも言えない言語がクセになります。
「アートッ!」(ありがとう?)のような、時折日本語に聞こえるセリフは笑えます。
明らかに未知の世界に突き進んでいくフキですが、まったく怖がることなく進む様に魅了されます。
おそらくフキには「虫が怖い」「化け物が怖い」というような固定観念や先入観が無いのでしょう。
面白い不思議な主人公です。
『やどさがし』の制作秘話
『やどさがし』のパンフレットから抜粋して、制作秘話を紹介します。
効果音を担当!タモリとスタジオジブリの関係性
タモリさんは『やどさがし』が宮崎駿監督との初仕事でした。
宮崎駿監督の印象について、タモリさんは以下のように語っています。
宮崎監督は細かく緻密な方だと思っていましたけど、全く印象が違う。「こんなに大胆なところがある人なんだな」と、今回、一緒に仕事をさせて頂いて思いました。(中略)宮崎監督から、特に注文や指示はなく、以前から私が好きな矢野顕子さんの声を横で聞きながらの収録は、とても心地よかったです。
『やどさがし』パンフレットより引用
宮崎駿監督もタモリさんのことを気に入り、その後『風立ちぬ』や『毛虫のボロ』でもオファーを出すことになります。
『毛虫のボロ』制作の際には、タモリさんのことを「天才」と大絶賛しています。
タモリさんは天才ですから、類似品はない。こう来るかなと思ったら全く違うアプローチをしてきたり、全部予習して来てくださって、一発でやってくれました。だからこっちも余計なことを言わない。彼の才能に全部任せました。
『毛虫のボロ』パンフレットー宮崎駿監督発言より
冒頭の自動車の効果音は宮崎駿監督の声
パンフレットには整音を担当した住谷真さんのインタビューも紹介されています。
その中で、効果音の中に宮崎駿監督の声が混ざっていることが明かされているのです。
今回、お楽しみとして冒頭の自動車の音には宮崎さんが参加しています。
『やどさがし』パンフレットより引用
正直、意識して聞いてみても分かりませんが、ウンチクとしては面白いですね(笑)
『やどさがし』の世界は異世界!?
宮崎駿監督の公式設定ではありませんが、美術監督の平原さやかさんが以下のように語っています。
冒頭の川を三途の川と勝手にイメージして、この川を渡った向こうは別世界だということで、川原に曼珠沙華(彼岸花)を咲かせてしまいました。そうすることで、作品全体に楽しいだけじゃない何かを出せるかなあと思ったんです。
『やどさがし』パンフレットより引用
確かに、冒頭は都会の描写や車、電車など、「我々の世界」が描かれているイメージでした。
ただ、川を渡った先は雰囲気が一変します。
彼岸花の描写はあくまでも平原さんの遊び心ですが、しっくりくる設定ですね。
『やどさがし』を実際に見た感想
文字が明らかに人の声で、効果音が文字で現れる世界は独特で、すぐにその世界に引き込まれました。
一見ファンシーな世界観ですが、ゾクゾクする場面もあり魅了されます。(虫もたくさん登場しますが、三つ目の虫が可愛かったです笑)
エンドロールでは声の出演としてタモリさんの名前が流れます。
その瞬間、劇場内に笑い声、納得する声、驚きの声、と様々なリアクションが聞こえてきます。
私自身も初見の際は効果音がタモリさんだということは知らなかったのですが、エンドロールで妙に納得させられました。
【どこで見れる?】『やどさがし』が見れるのはジブリ美術館だけ
『やどさがし』を見ることができるのは、三鷹の森ジブリ美術館だけです。
新年最初、1月のえいがは『やどさがし』です。「ぬら~」「ありがとう」「ぞぞぞぞ」など、すべての音(音楽・効果音・セリフ)を人の声だけで表現します。
— 三鷹の森ジブリ美術館 (@GhibliML) January 4, 2022
画面に音をあらわす文字が現れるという珍しい作品です。 pic.twitter.com/hJEfa366py
動画配信も無ければ、DVDも販売されていません。
また、ジブリ美術館でも常に見れるわけではありません。
ジブリ美術館の小さな映画館「土星座」では、10種類の短編アニメーションが定期的に入れ替えで上映されています。
上映スケジュールを確認したうえで、ジブリ美術館のチケットを確保する必要があるのです。
上映スケジュールや作品の一覧等、土星座の詳細は以下の記事で詳細にまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。