当記事では、胡散臭いけども憎めないキャラクター、『もののけ姫』のジコ坊について解説します。
ジコ坊の周辺には師匠連や天朝、ジバシリ等々、複数の組織が出てくることも特徴ですね。
絵コンテやジブリ公式本等を踏まえて解説しますので、参考になれば幸いです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は映画「もののけ姫」を一度は見ている方向けに執筆しています。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『もののけ姫』ジコ坊の基本情報
ジコ坊の基本情報は以下のとおりです。
本名 | ジコ坊 |
年齢 | 不明 |
性格 | 陽気でどこか噓くさい |
職業 | 師匠連の一員 |
声優 | 小林薫 |
シシ神退治を進める筆頭ですので、物語上は悪役という位置づけになるのでしょうか。
それでもどこか憎めない不思議なキャラクターです。
ジコ坊は師匠連という組織に属しており、シシ神退治もその「仕事」として取り組んでいます。
師匠連という謎の組織の一員であり、その命により、不老不死の力があるとされるシシ神の首を狙っている。石火矢衆の頭でもあり、狩人、ジバシリ等を動かす。シシ神の森の存在をアシタカに教えた人物。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
コミュニケーション能力が高く、見た目のわりに機敏な動きも見せます。
実はかなりの有能な人物なのでしょう。
ジコ坊の周辺組織を解説
ジコ坊の周辺には、様々な組織が登場します。
- 天朝
- 師匠連
- 唐傘連
- 石火矢衆
- ジバシリ
など、それぞれ何者なのか、混乱してきますよね。
「ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)」の内容を参考に、ジコ坊が関わる組織の関連図を作ってみました。
以下、それぞれの組織の役割について解説します。
天朝
映画『もののけ姫』の中でその姿を見せることはありませんが、ジコ坊の口から何度か登場した名前です。
ジコ坊「天朝さまがシシ神退治をみとめとるんだぞ!」
エボシ「そなたたち、この書きつけがわかるか?」
たたら場の女「はい、エボシさま」
エボシ「天朝さまのだ」
たたら場の女「天朝さまって?」
エボシ「みかどだ」
たたら場の女「みかど…?」
ジコ坊「いやぁまいった。まいった」
明確に「みかど」と発言されていましたね。
ロマンアルバムにおいても以下のように解説されていました。
作中には登場しないが、おそらく朝廷のこと。ジコ坊が持つ「かきつけ」の出所。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
つまりジコ坊は、朝廷の任務に就いていたわけです。
師匠連
朝廷直属の組織と想像できるのが、この師匠連です。
エボシ「わたしたちがここで鉄をつくりつづければ森の力は弱まる。それからのほうが犠牲もすくなくすむが…」
ジコ坊「金も時間もじゅうぶんにつぎこんだ石火矢衆四十名をかしあたえたのは鉄をつくるためではないぞ…とまあ師匠連は言うだろうなあ」
ジコ坊自身もこの師匠連の一員です。
朝廷から師匠連に命令が下され、師匠連がジコ坊に「シシ神殺し」の仕事を与えたというわけですね。
ジコ坊の上部組織。正体は不明だが、シシ神殺しの指令をジコ坊に出す。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
唐傘連
「唐傘連」はジコ坊が集めた組織で、ジコ坊の指示で動きます。
映画の中でその名前が出てくることは少ないですが、唐傘(赤い傘)が特徴の組織です。
エボシ「唐傘連の師匠たちがシシ神の首だけでここから手をひくもんかね。侍だけじゃないよ。石火矢衆が敵となるかもしれないんだ。男はたよりにできない。しっかりやりな、みんな」
ジコ坊に忠実で、たたら場にとっても森にとっても敵となりうる存在でした。
ロマンアルバムでは以下のように解説されています。
ジコ坊につき従う謎の集団。目的のためには手段を選ばない非情さを持つ。巨大な唐傘の柄は吹き矢になっていて、毒針が飛び出す。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
石火矢衆
石火矢衆はその名のとおり石火矢を扱う集団です。
本来は師匠連の傭兵ですが、総勢40名がエボシの元に所属しています。
シシ神退治を条件に、師匠連という謎の組織からエボシに貸し与えられた傭兵。明から輸入した石火矢を使い、もののけと戦う。鉄や米の運搬の護衛、タタラ場全体の警備も務める。総勢40名。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
なお、石火矢は「明」から取り入れたものとして描かれていますが、たたら場の石火矢はエボシが独自に加工したものです。
エボシ御前の設定については以下の記事で解説していますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。
ジバシリ
ジバシリはジコ坊が集めた狩人です。
ジコ坊がシシ神退治のため、天朝様の御威光でかき集めてきた山の民。狩人の一種だが、普通の狩人が神殺しに腰が引けているのを見て、新たにジコ坊が連れてきたと思われる。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
ジバシリはシシ神退治に協力している特殊な狩人で、甲六の発言からも通常の狩人とは異なることが分かります。
甲六「ありゃあただの狩人じゃねぇジバシリダだ」
唐傘連と同様、ジバシリも目的のためには手段を選ばない性質の人間が多いのでしょう。
ジコ坊自身の任務遂行に無心にこだわっている様子も読み取れます。
エボシ「やつの顔にぬったのは猪の血か?」
ジコ坊「へへ…ジバシリのわざだ。おぞましいものよ」
ジコ坊の詳細設定・裏話
『もののけ姫』はセリフからは読み取れない設定が多数存在します。
ジブリ公式本や過去の宮崎駿監督インタビューをもとに紹介します。
誰かに話したくなる裏設定もありますので、ぜひ知り合いに披露してみてくださいね。
裏側の商売に徹し、シシ神の首を狙うもの
『もののけ姫』制作現場に密着取材した『「もののけ姫」はこうして生まれた』の中で、ジコ坊のバック・ヒストリーのメモが明かされていました。
非人(天皇の直属民)の頭らしい。全国の情報を集め、裏側の商売に徹している。エボシのもたらした石火矢を配下にしこんで、エボシのタタラ経営に加担した。要するに傭兵の口入れ屋のようなものだが、本心はシシ神の首にある。
エボシが独自の石火矢隊(女達の)を組織したことに危機感がある。乙事主が勢力を結集したことを好機として、森がタタラを攻撃している間に、天皇の書状と情報網で集めたたジバシリ、悪党共と、自分の配下を組織して一挙にシシ神を殺そうとはかる
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
このメモ段階では「非人」と表現されていますが、これは師匠連を指していると考えられます。
悪党というのはおそらく唐傘連のことですね。
ジコ坊は「シシ神退治」という大きな任務に対し、手段を選ばず任務完了を目指しているのです。
陽気で嘘くさい坊主(宮崎駿監督のお気に入り?)
シシ神退治を狙うジコ坊は一見すると悪役です。
ただし、宮崎駿監督自身は「ジコ坊は悪い人じゃない」と明言しています。
この人はね、陽気な人なんです、基本的に。悪い人じゃないんですよ。こういうのはね、昔の喜劇映画見てないといけないんですよ。
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
また、ジコ坊のアフレコ現場では、小林薫さんへジコ坊の設定を詳細に語っています。
この内容も『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』の中に収録されているのですが、あまりにも長いのでポイントをまとめてみます。
- 全体どっかで噓臭さが漂う
- 目の前にいる人をたぶらかしながら生きようという本能を持っている
- 人の道を説きながら、ひどいことも平気でやる
- ひどいことをやる時も堂々と理屈を述べる
- 人を説得したり、たぶらかしたりすることを楽しみながら生きることができる
- 狡いところは狡い
- 徹底的にみっともない格好をして、人にあざ笑われながらそれを利用する
- 小物ではなく懐が深い
- 善も悪も全部一緒に持っている男
- 言っていることはいつも狙いが3つ4つある
陽気で噓くさい坊主というわけですね。
目的のために手段を選ばないずるいところはありますが、決して悪人ではないということでしょう。
ジコ坊については宮崎駿監督もかなり熱く語っていますので、宮崎駿監督自身もジコ坊が好きなのではないでしょうか(笑)
雑炊に集中していてアシタカの話を聞いていない!?
ジコ坊(小林薫さん)のアフレコ現場では、以下のようなエピソードも宮崎駿監督から語られました。
粥に味噌をこう溶いてるでしょ。そっちの方に気を奪われているんです、本当は。だから、タタリそのものって言ってる時にも、どっかで味噌で、お粥の味付けをしてるっていう。あんまりそれを強調しちゃいけないと思うんですけど、ちょっとそういう気分があると。
『「もののけ姫」はこうして生まれた(徳間書店)』より引用
ジコ坊「戦、行き倒れ、病に飢え。人界は恨みを呑んで死んだ亡者でひしめいとる。タタリというなら、この世はタタリそのもの。うん、旨い」
アシタカとジコ坊のシリアスな場面ですが、この場面で本心はお粥に向いているというのはジコ坊らしいですね。
こういった要素が、ジコ坊が憎めないキャラクターで愛される理由なのではないでしょうか。
なお、ここで振る舞っているお粥はアシタカが直前に購入した米です(「さ、そなたの米だ。どんどん食え」というセリフから分かります)
それにも関わらず、アシタカよりもジコ坊の方が遠慮なく雑炊を食べる様子は「まさにジコ坊!」といったところでしょうか。
※描かれている限りでは、ジコ坊が3杯、アシタカが2杯食べています
ジコ坊の声優は小林薫さん
ジコ坊の声優は俳優の小林薫さんです。
小林薫さんといえば『続・深夜食堂』で日本映画批評家大賞 主演男優賞(2017年)、『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン』で日本アカデミー賞 最優秀助演男優賞(2008年)を受賞するなどした名俳優です。
小林薫さんの基本情報
名前 | 小林薫 |
生年月日 | 1951年9月4日 |
本職 | 俳優 |
主な声優出演 | 国王(ゲド戦記) トシちゃん(ギブリーズepisode2) |
ちなみにご本人は、「僕自身はもう少し端正な人間だと思うので、なぜジコ坊?」と語っています。
宮崎監督やスタッフは、小林薫さんのアドリブに何度も笑わされ、感心したことがロマンアルバムの中で明かされています。
以上、ジコ坊について紹介しました。
映画だけでは読み取れない裏設定を踏まえると、映画の見方も変わるのではないでしょうか。
ぜひ、当記事の情報を踏まえてもう1度『もののけ姫』を楽しんでくださいね。
※当記事では『もののけ姫』のキャラクターについて多数紹介しています。
裏設定について数多く解説していますので、ぜひ、以下の記事も合わせてご覧ください。
『もののけ姫』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『もののけ姫』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の原作とされています。
※内容は映画と異なり、初期構想のイメージボードです。 - スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。