当記事では『千と千尋の神隠し』のハクについて解説します。
ハクはジブリ屈指の美少年で、人気の高いキャラクターです。
ジブリ公式本や関係者インタビューをもとに、意外と知られていない裏話もご紹介します。
『千と千尋の神隠し』の登場人物については以下の記事でまとめていますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
ハクの特徴・設定
名前 | ハク(ニギハヤミコハクヌシ) |
年齢 | 外見は12歳 |
一言プロフィール | 千尋を励ます魔法使いの少年 |
声優 | 入野自由 |
ハクは12歳の少年の姿をした魔法使いです。
湯婆婆に魔法を習う中で名前を失っていましたが、千尋との会話の中で自分の正体を思い出しました。
ここでは以下の観点でハクの特長を解説します。
- ジブリ作品屈指の美少年
- 白竜の姿を持つ魔法使い見習い
- 正体は河の神「ニギヤハミコハクヌシ」
順番にご覧ください。
ジブリ作品屈指の美少年
ハクは見ての通り、ジブリ作品の中でも屈指の美少年です。
おかっぱ頭ですが、目や鼻は美しく、「イケメン」よりも「美少年」という表現がぴったりですね。
美少年キャラクターは宮崎駿監督においては異例の存在でした(他には、のちに誕生したハウルくらいでしょうか)
宮崎駿監督は「今までの宮崎作品にはいなかった美少年」と問われて、以下のように答えています。
少女を美少女じゃなくしたら、片っ方をなんとかしないと、映画としてはいくら何でも問題あるんじゃないかっていう(笑)ことです。(中略)
どうせ少年出すなら美少年の方がいいやっていうか、なんか謎めいた少年ですから、それでいい…そう思ったんですが。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より引用
ハクを美しく描いた理由は、「千尋が美少女ではないから」ということなのです。
『千と千尋の神隠し』をできるだけリアルな作品にするために、千尋はあえて「ぶさいく」に描かれています。
ヒーローとヒロインのバランスを取った結果、ハクは美しくなったのです。
作画監督の安藤さんのインタビューによると、ハクはただ美しいだけではありません。
ハクはある意味、典型的な線の細い美少年ではあるんですけど、あまりそういうふうに描きたいとは思っていませんでした。本当はもっと怪しくしたかったんです。
ただキャラクター的に、透明感のある美少年の典型ということで描いていくしかなかったというのが正直なところです。
でもハクに関しても、少女漫画に出てくる美少年のようにならないように、気を付けたつもりです。
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より
たしかに時折見せる冷たい表情など、ある種の「闇」を感じる描写も多いですよね。
白竜の姿を持つ魔法使い見習い
ハクは白竜の姿を持つ魔法使いです。
湯婆婆のもとで働くことを条件に、魔法を授けられています。
紙吹雪のような鱗を出したり、怯える千尋に全速力で走る力を授けるなど、ところどころに魔法使いらしい動きが見られます。
また、白竜の姿自体も魔法の力であるのかもしれません。
ロマンアルバムによると「ハクは本来の姿を取り戻し、少年の姿となって飛ぶ」と記載されています。
人間の姿は仮の姿で、竜の姿が本来の姿であると考えている方もいますが、この記載を踏まえると竜の姿も仮の姿と考えられます。(本来の姿はあくまでも河の神であり、実態は無い?)
ハクは油屋では帳場を仕切る立場にいます。
油屋においては湯婆婆に次ぐNO2とも呼べる立場で、従業員からも「ハク様」と呼ばれています。
帳場とは、商店や宿屋、料理やなどで、帳づけや勘定をするところで、油屋の帳場を預かっているのはハクである。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
正体は河の神「ニギヤハミコハクヌシ」
ハクの本名は「ニギヤハミコハクヌシ」であり、正体は河の神であることが物語のクライマックスで明かされます。
「コハクヌシ」は千尋の溺れた川である「コハク川」が由来とみて間違いないでしょう。
「ニギヤハミ」については神話からとっていることが、ロマンアルバムの中で明かされています。
「ニギヤハミ」の名は記紀神話の饒速日命(にぎはやみのみこと)からとっている
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
ハクに関する裏話
『千と千尋の神隠し』の映画を見ているだけでは分からない、ハクに関する裏話を紹介します。
ジブリ公式本の内容や関係者インタビューをもとに解説しますので、参考になれば幸いです。
『千と千尋の神隠し』はハクとのラブストーリーではない
『千と千尋の神隠し』は異世界に迷い込んだ千尋のストーリーです。
孤独の中でハクに救われ、物語が進むにつれて千尋がハクを救う立場となっていきます。
釜爺のセリフを借りると「愛」の力でハクを救うのです。
一見すると『千と千尋の神隠し』は「千尋とハクのラブストーリー」ですが、鈴木敏夫プロデューサーや宮崎駿監督は「カオナシの映画」だと言うのです。
鈴木敏夫プロデューサーのインタビューに、面白い情報がありました。
試しに、キャラクターごとの登場秒数を計測してみることにしました。
(中略)
一位はダントツで千尋でした。これはあたりまえですね。
問題は次です。もしこの物語がラブストーリーなら、二位はハクでなければならないはずです。ところが、二位はカオナシだったんです。
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より
気づけば物語は、カオナシのストーリーに変わってしまっていたわけです。
カオナシは当初は脇役の予定でしたが、急遽物語の重要人物となったキャラクターです。
「カオナシの映画」と呼ばれる詳しい理由については、ぜひ以下の記事を合わせてご覧ください。
実際に『千と千尋の神隠し』の予告編にもハクは登場しません。
カオナシ中心の構成になっていますので、ぜひ以下の動画もご覧ください。
ヒーローであるハクと千尋のとの絡みは「恋愛映画ではないから」という方針で予告や広告には登場しなかった
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より
白竜は「犬」で「うなぎ」?
竜は架空の生き物です。
そのため、ハク竜には他の動物の要素が含まれています。
作画監督の安藤さんは「顔つきは犬ですよね」と発言しており、また、絵コンテには以下のようなメモが残されています。
ボイラー室で壁にへばりつく白竜
→ヤモリのように薬ダンスにはりつく竜
ハクにニガダンゴを食べさせるシーン
→犬に薬をのませた人はわかるはず
ニガダンゴを食べて苦しむ様子
→まないたにとめられたウナギのように暴れる
【考察】ハクにまつわる謎
ここからは、ハクにまつわる謎や都市伝説について考察します。
「明確にコレが答えだ!」というものではありませんが、できるだけ公式情報を拠り所に考察します。
楽しんでいただければ嬉しいです。
ハクは二重人格者?「ハク様と呼べ」の謎
ハクは千尋にとって優しい味方です。
一方で、千尋が湯婆婆と契約を結んだ直後のハクは、「ハク様と呼べ」と冷たく言い放つなど、ゾッとするほど恐ろしい態度を見せました。
千尋がリンに「ハクって人、2人いるの・・?」と聞くほどです。
ハクのこの態度は何だったのでしょうか。
- 湯婆婆の監視の可能性があるので演技していた
- 仕事モードだったので厳しい態度を取った
- 湯婆婆に操られており、「冷たいハク」モードだった
様々な説が存在しますが、答えは「湯婆婆に操られていた」説が有力です。
絵コンテを見ていても、演技として捉えるにはこの表情は冷たすぎます。
また、ハクはニガダンゴを食べるまで、体内にタタリ虫(湯婆婆がハクを操るために忍ばせた虫)を宿しています。
冷たいハクはこのタタリ虫の影響で、湯婆婆に操られているからと考えても不自然ではありません。
さらに極めつけとなる根拠が、以下のスタジオジブリの公式ツイートです。
A:外見は12歳くらいとなっていますが、実年齢は不明です。湯婆婆が寝ている昼間は優しいのですが、夜は冷たい。
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) January 7, 2022
宮﨑さん曰く、千尋は管理職に恋したようなもの。
「昨夜のあれはなんだったの?」 pic.twitter.com/zVt8x62qya
「湯婆婆の寝ている昼間は優しいのですが、夜は冷たい」とされています。
湯婆婆が寝ていて、湯婆婆の支配から逃れている時間は本来の優しいハクに戻れるのではないでしょうか。
結論!ハクは二重人格
- 優しいハク:本来の姿(湯婆婆の支配が解けている)
- 冷たいハク:湯婆婆に支配されている
「振り返ってはいけない」の理由
物語のクライマックス、ハクは意味深なセリフを残します。
ハク「千尋はもと来た道をたどればいいんだ。でも、決して振り向いちゃいけないよ、トンネルを出るまではね」
なぜ振り向いてはいけないのでしょうか。
千尋は振り返らず両親に会うことができましたが、仮に振り返ってしまうとどうなっていたのでしょうか。
ネットの情報を見ると以下のような説がありました。
千尋を逃がしたハクは湯婆婆にひどい目にあわされるはず。
千尋が振り返ると、そのひどい仕打ちを目にしてしまうので、ハクは振り返ってはいけないと念をおした
たしかに湯婆婆とのやり取りで「お前はどうなってもいいのかい」といったやり取りもありましたので、可能性はある説です。
ただ当サイトでは、「振り返ってはいけない」というのは神話のオマージュであると考えています。
ロマンアルバムの中に、以下のような解説を見つけました。
記紀神話でイザナミは、自分を迎えに黄泉の国を訪れた夫のイザナギに、黄泉の国を出るまでは決して振り返ってはいけないと頼む。にも関わらずイザナギが振り返ったために、永遠に黄泉の国を出ることがかなわなくなるのだ。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
「ニギヤハミコハクヌシ」の由来も記紀神話ですので、同じ神話のエピソードを混ぜ込んでいても不思議ではありません。
もしも千尋がイザナギのように振り返ってしまっていたら、もう二度と現実世界には戻れなかったのではないでしょうか。(そうであるなら、ハクはもっと強く言え・・とも思いますが(笑))
【都市伝説】ハクは「千尋の死んだ兄」説
映画評論家の岡田斗司夫さんが提唱したことで有名となったのが「ハクは千尋の亡くなった兄である」とする説です。
公式に認められた見解ではありませんが、信じている方も多いようです。
簡単に紹介すると以下のような内容です。
- 千尋にはかつて兄がいた
- 千尋が川で溺れたときに、救助を試みた兄は亡くなってしまった
- この兄こそがハクなのである
- 両親は千尋に兄の存在を隠している(千尋も幼かったので覚えていない)
この説の根拠としては以下のようなものが挙げられています。
- ハクが千尋のことを知っていた
- お母さんが違和感を感じるほどに冷たい理由が他に説明できない
- 千尋が川に落ちた場面を回想するシーンに、「兄の手」と思われる手が描かれている
ただ、ハクが千尋のことを知っていたのは、千尋がコハク川に落ちたからです。
実際にハクのセリフにも「私の中に落ちたとき・・・」というものがあります。
また、お母さんが冷たい理由は宮崎駿監督が「リアルなお母さん」を追求した結果です。
そうなるとポイントは、「兄の手」が描かれているという指摘でしょうか。
川に落ちた場面を回想するシーンとは、以下の一連の場面です。
この時、川面に向かって手を指し伸ばす描写も描かれています。
(絵コンテでは以下のとおり、「サーっとのびていく子供の手」と書かれています)
これが落ちた子どもの手なのか、助けようとしている子どもの手なのか、絶妙に分かりにくいのです。
このシーンに対して、岡田斗司夫さんは以下のとおり指摘しています。
- この場面、千尋は裸である(先ほどの画像ご参照。たしかに、肩は素肌が描かれています)
- 子どもの手には、半そでの服が描かれている(先ほどの絵コンテでは分かりにくいですが、実際の映画では描かれています)
- 千尋は裸なので、半そでの手は別の人間のものである
- その人間こそが、千尋を助けようとして亡くなった兄なのだ
さすが岡田さんの着眼点です。非常に面白い考察です。
ただ、裸のように見える千尋はあくまでも今の(10歳の)千尋なんですよね。
裸の千尋は当時を思い出している「今の千尋」の演出で、半そでの手は川に落ちた「当時の千尋」とも考えられます。
幼い千尋が裸で描かれ、そこに半そでの手が登場したのなら、かなり信憑性は上がるのですが・・
やはり飛躍しており「これが答えだ!」と語るには根拠として弱いでしょう。
ただ、考察としては面白いですし、解釈はあくまでも見る人の自由です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
『千と千尋の神隠し』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『千と千尋の神隠し』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
- 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
-
過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
-
インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
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『ハウルの動く城』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ - The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
編集:スタジオジブリ¥3,038 (2023/04/28 09:06時点 | Amazon調べ)ポチップ - 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
-
独自インタビュー等、ここでしか知ることができない貴重な情報が掲載されています。
既に絶版となっており、プレミア価格がついている貴重な書籍です。
(当サイトも入手には苦労し、図書館でなんとか借りることができました)ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。