当記事では、『千と千尋の神隠し』の裏設定を紹介します。
『千と千尋の神隠し』には様々な要素が盛り込まれており、映画を見ただけでは気づけない設定が多数存在します。
楽しんでいただければ幸いです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『千と千尋の神隠し』の意外と知らない裏設定
ここでは以下の裏設定について、順番に解説します。
- この映画は10歳の女の子に向けた物語
- 油屋は神様たちのソープランド?
- 油屋の本当のモデルは「スタジオジブリ」
- 「あの世界」の時の流れは速い?
- 【都市伝説】一部の映画館で「幻のエンディング」が上映?
この映画は10歳の女の子に向けた物語
『千と千尋の神隠し』の主人公・千尋は10歳のごく普通の女の子です。
10歳の女の子を主人公にした物語は、10歳の女の子をターゲットとして描かれています。
宮崎駿監督は実際に友人である女の子を思い浮かべながら、『千と千尋の神隠し』を作ったのです。
赤ん坊の頃からよく知っているガールフレンドが五人ほどいまして、毎年夏に、山小屋で二、三日一緒に過ごすんですが、その子たちを見ていて、この子たちのための映画が無いなと思いまして、その子たちが本気で楽しめる映画を作ろうと思ったのだ、狙いというかきっかけです。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
10歳の女の子をターゲットにしているため、彼女たちが本当に共感できる設定が多数盛り込まれています。
その代表例が千尋の設定です。
千尋は宮崎作品のヒロインにしては目が小さく、鼻も低く描かれており、いわゆる「美少女」ではありません。
これは10歳の女の子が共感できる「普通の女の子」を意図しているのです。
その他には、どこか冷たく見える千尋のお母さんも注目です。
「お母さんが冷たい理由」は多数考察されていますが、これも10歳の女の子の目線で「リアルなお母さん」を描いたものです。忙しくてもいつも優しくてニコニコしているようなお母さんは、「ダメ(リアルではない)」というのが宮崎駿監督の見解です。
宮崎駿監督はできるだけリアルな設定で物語を描き、世の中の「現実」を作品に込めています。
可愛くて勇敢で強い心を持ったスーパースターが活躍する話ではないのです。
「映画だから出来る」のではなくて、「私でも出来る」という感じの世界にしたかった。
「世界はこれ以上ややこしくはないよ」「オジサン嘘つきません」というつもりで作りました。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
油屋は神様たちのソープランド?
湯婆婆が経営する油屋は「八百万の神々を癒す場所」と映画では語られます。
一見すると「銭湯」のようですが、実は神様たちのソープランド(風俗業)だという裏設定が存在します。
手っ取り早く物語のあらすじを解説する宮崎さんが「この映画は要するに、ソープランドに勤める娘の話ですね(笑)」と言っていた
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
10代の女の子をターゲットにしていると言いながらも、なぜ宮崎駿監督はソープランドを選んだのでしょうか。
宮崎駿監督は風俗産業こそが日本社会の縮図であると語っています。
子どもたちに社会の「リアル」を伝えるためには、ぴったりのテーマだったということでしょうか。
宮崎は湯屋について「今の世界として描くには何がいちばんふさわしいかと言えば、それは風俗産業だと思うんですよ。日本はすべて風俗産業みたいな社会になってるじゃないですか」と語っている。
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より
なお、宮崎駿監督が風俗産業に注目したきっかけとなったのは、鈴木敏夫プロデューサーの話だったようです。
鈴木敏夫プロデューサーがその時のエピソードをインタビューで語っています。
僕はすっかり忘れていたんですが、企画を練っているとき、僕がキャバクラ好きの知り合いから聞いた話を宮さんにしたことがあったんです。(中略)
その話をヒントにして、宮さんは湯屋をキャバクラに見立てたストーリーを作ったというのです。
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より
『千と千尋の神隠し』は一見するとお風呂屋さんですが、じっくり観察すると大浴場はありません。
油屋は銭湯ではないことが、こういった描写からも読み取れるようになっています。
ー湯屋には大浴場がありませんでしたが、その理由は?
宮崎 そりゃあ、色々いかがわしいことをするからでしょうね(笑)
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
油屋の本当のモデルは「スタジオジブリ」
油屋が風俗産業であることが明らかになった際、「ジブリが社会問題をテーマにした!」と解説する声が多く上がりました。
実際にその前提で見ると、「両親を豚にされた女の子が、両親を救うために無理やりソープランドで働く話」とも見えるのです。
ただ実は、宮崎駿監督の狙いはそこではありません。
油屋は風俗産業ではあるものの、その真のモデルは「スタジオジブリ」だったのです。
宮崎駿監督は明確に「ジブリをモデルにした映画」と語っています。
鈴木敏夫プロデューサーを初め、僕も凶暴になることはしょっちゅうありますし、わめき散らすし頭も湯婆婆のようにでかいですし、若いスタッフにとってはそういう、自分の爺さんの年の人間が、血相変えて怒鳴ったら怖いですからね。
で、それだけで十分な悪役になると思うので、こういう、ジブリをモデルにした映画を作りつつあるわけです。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
若いスタッフにとって、「スタジオジブリ」は恐ろしいところだというわけです。
この恐ろしい職場で働くことを想像したときに生まれたのが、『千と千尋の神隠し』です。
そこ(編注:スタジオジブリ)で働かないことにはどうしようもない立場の子が現れたら、どういう目にあうんだろうとリアルに考えてみた時に、この物語が出来てきたんです。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
宮崎駿監督はスタジオジブリについて以下のように語っています。
- ジブリは狭いけど、中は油屋のように複雑
- 鈴木敏夫プロデューサーはでかい声でどなる
- 宮崎駿監督も「何甘い夢見てんだよ」ってでかい声だす
- みんなだいたいおっかない顔している
- 取り付く島もない連中の中に入って自分の居場所を見つけて認めてもらうのは大変な努力がいる
スタジオジブリで居場所を見つけて一人前に働くのは「大変な努力」が必要だというわけです。
ただ、これはジブリに限ったことでしょうか。
おそらく社会で自立して働くということは、程度の差はあれどこも同じはずです。
宮崎駿監督は「油屋」の描写を通して、子どもたちに「世の中のリアル」を伝えているのです。
僕は今回「これが僕の知っている世の中だ」「君たちが出ていく世の中だ」と思ってこの映画を作ったんです。僕はウソをついて、きれい事を言って、今ここにある世界をその友人の娘たちに見せたいとは思わなかったんです。
ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)より
お風呂屋さんに見える油屋は実は風俗産業で、そのモデルはスタジオジブリで、そしてそれは社会の縮図なのですね。
この油屋については以下の記事でさらに詳細に解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
「あの世界」の時の流れは速い?
『千と千尋の神隠し』では、時間の経過が少々分かりにくくなっています。
千尋が大きく成長するので、数か月~年単位のストーリーとも解釈できますし、数日の出来事のようにも感じられます。
ただこれについては、鈴木敏夫プロデューサーが「3日の話」と明言しています。
普通の映画だったら、名前を奪われて働くことになった千尋がいて、真中に「それから3年…」という感じのテロップが入ってから後半になる。ところが、この物語はですね、みなさんお気づきかどうか分かりませんが、たった3日の話なんです(笑)
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
映画の中では確かに3日分の昼と夜を繰り返されています。
実は間に描かれていない期間があるわけではなく、純粋に3日の話と理解して良いようです。
ただし、これはあくまでも油屋の世界の話です。
現実世界(外の世界)では、3日以上の時が流れていたことがほのめかされています。
再会した両親は何も覚えていなかった。さっさともと来た道を引き返していくが、外ではかなりの時間が経過していた
The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)より
車がほこりまみれになるなど、少なくとも1か月~2か月程度は経過しているものと想像できます。
なお、油屋の世界は1日が24時間であるかどうかも定かではありません。
千尋がハクと出会う場面では急速に日が沈みますが、その場面の絵コンテには以下のように書かれています。
ちひろが注意深い子だったら陽が急に傾いたのに気づいたはずだが、鈍感な都会の子
雲の下の方のきれ目が染まり始めたそがれが急速に近づいていることにも気づかず
実際にハクの登場シーンではみるみるうちに影が大きくなり、あたりが闇に包まれていくのが分かります。
現実世界であのスピードで日が沈むことはありえませんので、1日の時間の流れも異なっていると考えるのが自然でしょう。
海原電鉄は「銀河鉄道の夜」のオマージュ
『千と千尋の神隠し』の見どころのひとつが、千尋が銭婆のもとへ向かう鉄道のシーンです。
釜爺が40年前に使ったらしい回数券によると、「海原電鉄」という名前であることが分かります。
物語の序盤から電車の伏線はいくつか描かれており、宮崎駿監督が当初からやりたかったシーンなのだろうと想像できます。
電車の伏線
- お母さんがトンネルの中で「電車の音が聞こえる」と発言
- 千尋が初めて油屋の前に立った時、橋の上から電車を見下ろすシーンがある
ロマンアルバムによると、宮崎駿監督も「彼女がようやく電車に乗ってくれたときは、本当にうれしかったですね」と語っています。
なお、このシーンは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のオマージュとなっています。
千尋が電車に乗るシーンに影のような人々が登場するが、監督の構想の中では、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に対するひとつの回答となるような、もうひとつのドラマがそこで用意されていたようだ。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
映画で触れられることはありませんでしたが、海原電鉄には多数の乗客が乗り合わせています。
特に多くの乗客が下りる「沼原」という駅では、ひとり立ち尽くす少女の影が印象的でした。
尺の都合でカットされてしまったようですが、こういったキャラクターを使ったストーリーも構想にはあったのでしょう。
なお、宮崎駿監督はインタビューで「電車はどこに繋がっている?」と質問されましがが、答えずに説教で返してしまいました。
本当は描きたいものがあったけれども、実現できなかったもどかしさから来る態度なのでしょうか。
家や会社のかたわらを走る電車やトラックの行先を気にもとめない人に限って、あの電車は?ってたずねてきます。千尋はそんなことに関心を持てないですよ。目の前で起こっている現実だけでせいいっぱいなんです。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
【都市伝説】一部の映画館で「幻のエンディング」が上映?
映画公開初日だけ、一部の地域で別のエンディングが流れていたという噂です。
話の発端は2014年にネット掲示板(2ちゃんねる)に書き込まれた以下の内容です。
千と千尋の神隠し本当のラストシーン
1 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/11/21(金) 09:32:46.04 ID:R2BYzI01K.net
多くの人はトンネルから抜けだし髪留めがキラリと光り車を走らせて物語は終わり。だと思っているでしょうが本来この後には続きが存在します。ちなみに映像化、アフレコもされており公開当時映画館でも一部で実際に流されていました。現在何故以下のラストシーンが無かったかのように扱われているかは謎である
・千尋が車の中で来る前に着けていた髪留めが銭婆から貰った髪留めに変わっていることに気が付き不思議がる(何故かは覚えていない)
・新居に向かう途中、丘から引っ越し業者が既に到着しているのが見え母親が「もう業者さん来ちゃってるじゃないのー」と父親に怒る
・新居に到着後、引っ越し業者の1人から「遅れられると困りますよー」と注意される
・千尋が1人何気なく新居の周りを歩いていると短い橋の架かった緑ある小川があることに気付く
・橋から川を眺めていると千尋は一瞬ハッと悟ったかのような状態になりこの川がハクの生まれ変わり、新たな住み処であることに気付いた?かのように意味深に物語が終わる以上が千と千尋の神隠し本来のラストシーンです。今回の地上波放送でもこのラストシーンが流れることは恐らく無いでしょう
2ちゃんねる過去ログより引用
「映画公開初日だけ」「一部地域限定」と何とも裏取りが難しい情報なのですが、これに対して「私もこのエンディングを見たかもしれない」という反応がチラホラ現れたのです。
書き込まれたストーリーも絶妙にリアルで、「幻のエンディング」の噂は瞬く間に広まりました。
ただこの「幻のエンディング」については、ジブリが公式に否定しています。
たくさんのご質問、ありがとうございました。
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) January 7, 2022
Q:『千と千尋の神隠し』には幻のその後の物語があり、一部映画館でのみ上映されたという噂がありますが本当ですか?それともただの都市伝説でしょうか。
A:都市伝説です。
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) January 7, 2022
宮﨑さん「最初は千尋の家から始める予定だったんだよ。千尋の部屋が妖怪の通り道になっていて、お母さんと一緒に湯屋へいくって話。でもまどろっこしいからやめたんだよね。なのでそういう噂が流れているんだったら、面白いね!」
現実的に考えても上映後に作品を差し替えた記録・エピソードがどこにも残っていないのも不自然ですよね。
ではなぜ、このような都市伝説が広まったのでしょうか。
書き込みがデマだったとしても、「私も見た」という人が続出したのはどういうカラクリなのでしょうか。
おそらくですが、「幻のエンディング」に絶妙に事実が混ぜ込まれているためでしょう。
- 宮崎駿監督は当初は「千尋たちの引っ越しのシーン」を描いていたことをインタビュー等で語っている
- 「千尋が川にいけば、ひょっとするとハクに会えるかも」と宮崎駿監督は発言したことがある
こうした情報が見た人の記憶の中でごちゃ混ぜになり「幻のエンディングは事実だ」と誤認したのではないでしょうか。
「幻のエンディング」が書き込まれた2014年は『千と千尋の神隠し』の公開から10年以上経過しています。
10年以上前の映画のエンディングをはっきりと覚えている人など、なかなかいないでしょう。
典型的なマンデラ効果とも言える都市伝説ですが、話題としては面白いですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
『千と千尋の神隠し』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『千と千尋の神隠し』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
- 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
-
インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
-
『ハウルの動く城』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ - The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
編集:スタジオジブリ¥3,038 (2023/04/28 09:06時点 | Amazon調べ)ポチップ - 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
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独自インタビュー等、ここでしか知ることができない貴重な情報が掲載されています。
既に絶版となっており、プレミア価格がついている貴重な書籍です。
(当サイトも入手には苦労し、図書館でなんとか借りることができました)ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。