『屋根裏のラジャー』はジブリ出身者による制作会社「スタジオポノック」による最新作です。
当記事では『屋根裏のラジャー』のあらすじを紹介し、ストーリーの謎についても徹底解説します。
当記事はネタバレを含みますのでご注意ください。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
『屋根裏のラジャー』のあらすじ
『屋根裏のラジャー』のあらすじは以下のとおりです。
- 想像力豊かな少女アマンダは、自分だけに見える友だち・ラジャーと毎日想像の世界を冒険していた。
- ラジャーは想像によって生まれた「イマジナリ」であった
- ある日、ラジャーの元に謎の男・ミスター・バンティングが現れる
- バンティングはイマジナリを食べることで生きながらえているイマジナリの天敵であった
- バンティングから必死で逃げる際、アマンダは交通事故で気を失ってしまう
- アマンダの記憶からラジャーが消えかけることにより、ラジャー自身も消えそうになる
- 消えかけたラジャーはイマジナリの町にたどり着き、イマジナリの仲間と過ごすこととなった
- アマンダともう一度過ごしたいラジャーは、アマンダの入院する病院を目指すのであった・・
原作が児童文学ということもあり、子どもでも分かりやすいシンプルなストーリーです。
純粋に楽しめるストーリーが、美しい画面の中で展開していきます。
『屋根裏のラジャー』を考察
『屋根裏のラジャー』は子どもでも楽しめる物語で、頭を悩ませるような謎は多くはありません。
ここでは、『屋根裏のラジャー』の重要人物について以下の観点で考察します。
- 主人公・ラジャーの生まれた理由
- 悪役・バンティングの正体
主人公・ラジャーの生まれた理由
以下は怪しげな猫・ジンザンの意味深なセリフです(原作より)
質問に対する答えのように、その子にはおまえという答えしかなかったのさ
『ぼくが消えないうちに』より
アマンダがラジャーを作り出したのは、それがアマンダにとっての「答え」だと言います。
原作ではラジャーが生まれた理由は明確には語られていないのですが、『屋根裏のラジャー』ではしっかりと描かれました。
ラジャーはアマンダにとって、父親の代わりとも言える存在だったのです。
- ラジャーの誕生した時期(3ヵ月と3週間と3日前)は、アマンダの父が亡くなった時期と重なる
- ラジャーとアマンダの合言葉「消えないこと、守ること、ぜったいに泣かないこと」と重なる言葉が、父の形見の傘にも書かれていた。
原作ではアマンダの父親はアマンダが生まれる前に亡くなっています。
この「ラジャーは父親変わり」の設定は、スタジオポノック独自の解釈なのです。
父親の経営していた書店は閉店することになり、物語冒頭では悲し気なアマンダの様子も描かれます。
想像力豊かで元気いっぱいに見えたアマンダは、実は心に傷を負った少女でした。
アマンダが心の穴を埋めるために生み出したのが、イマジナリのラジャーというわけです。
「アニメは苦しんでいる子どもに寄り添うもの」というスタンスは、西村プロデューサーや百瀬監督が長年共にした高畑勲監督の基本スタンスです。
まさに『屋根裏のラジャー』もこのスタンスとなっており、高畑勲監督の血を継いだ作品です。
なお、宮崎駿監督は「アニメは子どもが楽しむもの」というスタンスであり、高畑勲監督と真逆だったエピソードはファンの間では有名です。
悪役・バンティングの正体
イマジナリを食べてしまう悪役・バンティングですが、彼は一体何者なのでしょうか。
イマジナリの間では何百年も生きていると噂されており、少なくともただの人間ではありません。
原作ではバンティングは以下のように語られています。
- イマジナリを食べるたびに、もう1年生きることができ、何百年も生きている
- 自分のイマジナリを信じる力が欲しいから、他のイマジナリを食べている
- 他の人の想像力を食べることで、自分のイマジナリを維持している
イマジナリの間では悪魔と取引した男のように噂されていますが、その言動は純粋そのものです。
自分のイマジナリを大切に思い、想像の世界に執着するあまり、その歪んだ愛情が悪魔になってしまったのでしょう。
最後は自分のイマジナリを食べてしまったことで、姿を消してしまいました。
映画ではイマジナリの少女が自らバンティングの口に飛び込んだように見えました。
実は原作では、少女はレイゾウコに突進されたことでバンティングの口に吸い込まれます。
「自ら食べられる」というのは映画オリジナル要素ですが、これはスタジオポノックが少女もバンティングを止めたがっていたと解釈したからなのかもしれません。
最後は黒い煙のように消えて、残されたのはヨボヨボに老けたお爺さんの写真でした。
この最後については、以下のように解釈できます。
- これまでイマジナリを食べて維持していた年月分、一気に老けてしまった(原作ではこの説明で、バンティングは消えるのではなくヨボヨボのおじいちゃんに変わり果てます)
- 大切なイマジナリを失ったことで生きがいを失い、消えてしまった
- バンティング自身が想像力によって生きながらえたイマジナリだったため、煙となって消えてしまった
本来大人になればイマジナリは見えなくなります。
それを受け入れることができず、イマジナリにこだわり続けた純粋すぎる男こそが、バンティングなのでしょう。
作品に込められたメッセージを考察
『屋根裏のラジャー』の原作は児童文学であり、ストーリーも分かりやすい物語となっています。
西村プロデューサーや百瀬監督は、この作品にどのようなメッセージを込めているのか考察します。
西村プロデューサーの企画意図
企画・脚本を手掛けた西村プロデューサーの企画意図がパンフレットに掲載されています。
いずれ消えてしまう命の意味を見出そうとする少年ラジャーに、信じ合い、響き合い、未来への力強い味方を取り戻す物語を託そう。そして、笑い、涙し、隣の席で見ている家族を、友を、愛する誰かを、いっとき抱きしめたくなるような映画を作ろう。
『屋根裏のラジャー』映画パンフレット 企画意図より
こちらは一部抜粋ですが、『屋根裏のラジャー』はまさに、目の前の大切な存在に気付かせてくれる作品です。
いずれ消えゆくラジャーを描くからこそ、より人間関係の大切さが浮き彫りになる構造となっているのです。
原作にはない親子の物語
『屋根裏のラジャー』では、登場人物の設定が原作よりも詳細に描かれています。
原作のアマンダは「想像力豊かな少し変わった子」程度の設定であり、お父さんもアマンダが生まれる前に亡くなっていました。
一方で『屋根裏のラジャー』では、お父さんはつい数か月前に亡くなっており、ラジャーもそれと同時に誕生したように描かれています。
現実からの逃避を一緒に付き合ってくれる相手としてパパの面影をもったラジャーが生まれたと捉えました。
『屋根裏のラジャー』映画パンフレット 百瀬監督インタビューより
消えないこと、守ること、ぜったいに泣かないこと
これはラジャーとアマンダの重要な合言葉です。
そしてこれは、「お父さんを忘れない、お母さんを守る、ぜったいに泣かない」という父と娘の約束でもあったことが物語の中で判明します。(この場面で涙した親世代の方は多いのではないでしょうか・・・)
『屋根裏のラジャー』は原作よりも深く登場人物の背景を描くことによって、大切な人間関係に気付かせてくれる作品になっているのではないでしょうか。
高畑勲監督への追悼作品?
『屋根裏のラジャー』の企画は公開の6年前、2018年頃にまで遡ります。
この時期は高畑勲監督が亡くなった時期とも重なるのです。
『屋根裏のラジャー』の脚本を手掛けた西村プロデューサーは、プレミア上映の舞台挨拶で、以下のような趣旨の内容を語っています。
- 高畑勲監督の作品が大好きでスタジオジブリに入った
- 幸運にも『かぐや姫の物語』を一緒に作ることができた
- 西村プロデューサーがジブリを去った後も、「もう1本一緒に作ろう」と話をしていた
- そんな中、『屋根裏のラジャー』を企画している最中に高畑勲監督は亡くなってしまった
- 人はいずれ消えていくけれど、そこに何が残るのかを考えながら企画を続けた
西村プロデューサーは、「イマジナリーフレンドである高畑勲監督」のために、プレミア上映に1席用意していたそうです。
また、『屋根裏のラジャー』には高畑勲監督にそっくりな「レイゾウコ」という名前の犬が登場します。
スタジオポノックスタッフの、高畑勲監督愛が溢れた作品になっているのです。
イマジナリーフレンドは忘れられ、消えゆく存在です。
人間もいずれ寿命を迎え、忘れられる瞬間も来るでしょう。
イマジナリーフレンドであるラジャーを通じて、西村プロデューサーは人間の生きる意味を発信しているのではないでしょうか。
いつか消えるとしても、忘れられるとしても、今懸命に生きていることは無駄ではない。
そんな力強いメッセージが感じられます。
ふと、『千と千尋の神隠し』の銭婆の名セリフを思い出しました。
銭婆「一度あったことは忘れないものさ。思い出せないだけで」
スタジオポノックは、「生きるメッセージ」もジブリから継いでいるのかもしれませんね。
『屋根裏のラジャー』の感想
私は『屋根裏のラジャー』が好きです。
スタジオポノックの代表作になりうる作品だと感じています。
ここでは、以下の観点で『屋根裏のラジャー』の個人的な感想について語ってみます。
純粋な気持ちで楽しめる良作
児童文学が原作ということもあり、純粋な気持ちで楽しめる見ていて心地良い作品でした。
イマジナリの世界とリアルな世界が絶妙に混ざり合い、ファンタジーでありながら妙にリアリティも感じる世界観となっています。
残念ながら今現在私はイマジナリは見えませんし、イマジナリがいたのかどうかも覚えていません。
(私には子どもが二人いますが、)子ども達にもイマジナリはいるのだろうか、等と考えながら映画の世界に浸っていました。
先は予想しやすい展開にはなっていますが、期待通りにストーリーが展開する心地よさを感じられます。
何より、手描きにこだわるスタジオポノックの作る画面が美しい・・・
映画館で見たい作品としておすすめできます。
子ども達も気に入った様子
スタジオポノックの子ども向けのスタンスを信用して、小学生と幼稚園の我が子も連れて行きました。
(ちなみに『君たちはどう生きるか』には連れていきませんでした。宮崎駿監督が何をしでかすか怖かったので・・笑)
スタジオポノックは、これからの世界に生きる子どもたち、かつて子どもだった全ての大人たちが、心から楽しめるアニメーション映画制作を志すアニメーション映画会社です。
スタジオポノック公式サイトより
期待通り、子ども達は心から楽しんでくれたようです。
帰宅後は自分のイマジナリを絵にかいて見せてくれたり、本当に連れて行って良かったと思いました。
悪役のバンティングさんや、そのパートナーの少女は正直怖いです。
少女の登場シーンは大人でもゾッとします。
アマンダが車にひかれてしまうシーンなど、ショッキングな場面も存在します。
怖がりな子どもには、映画館で見るには少し注意した方が良いかもしれません。
愉快なイマジナリもたくさん登場しますし、全体的には間違いなく子どもが楽しめる作品です。
子連れの方も安心して見せてみましょう。
しいて言うならここが残念
子ども達の反応を見ても、『屋根裏のラジャー』は素晴らしい子ども向け作品だと思います。
ただ私は心の汚れてしまった大人なので、正直少々の物足りなさを感じてしまったのも事実です。
個人的にやや残念だった点
- 分かりやすいストーリーだが、その一方で大どんでん返しは無い
(いい意味でも悪い意味でも、期待は裏切らない) - 説明的なセリフが多く、もっと絵だけで魅せて欲しかった
- 壮大に美しく描かれたイマジナリの町が、あまり活かされていなかった
- ミスター・バンティングの人物像も、さらに深く描いて欲しかった
『屋根裏のラジャー』はセリフで多くのことを語ってくれるため、非常にストーリーが分かりやすくなっています。
子ども向け作品ならそうあるべきですし、それがこの作品の長所なのでしょう。
ただ、『君たちはどう生きるか』のような作品が好きな私にとっては、少々くどいように感じてしまいました。
そして原作と比べて登場人物の人物像が深く描かれてはいますが、ミスター・バンティングにももう少しだけ踏み込んで欲しかった・・・
単なる悪役ではない、実は純粋すぎる男なのだろうというところまで感じ取ることはできたのですが、もう一歩感情移入したかったところです。(個人的には、バンティングは大好きなキャラクターになり得る気がしていました)
『屋根裏のラジャー』の原作
『屋根裏のラジャー』の原作はイギリスの作家アシュリー・フランシス・ハロルドによる『The Imaginary(ぼくが消えないうちに)』です。
『屋根裏のラジャー』の基本的なストーリーはこの原作に沿っています。
ここにスタジオポノックの独自の解釈が加わり、児童文学が全ての世代が楽しめるアニメーション映画となっているのです。
『屋根裏のラジャー』と原作の違い等については以下の記事で詳細に解説しますので、ぜひ合わせてご覧ください。
『屋根裏のラジャー』の登場人物・キャスト
『屋根裏のラジャー』の登場人物・キャストは以下のとおりです。
スタジオジブリと同様、スタジオポノック作品も俳優陣を起用する傾向にあります。
- ラジャー(声優:寺田心)
- アマンダ(声優:鈴木梨央)
- リジー(声優:安藤サクラ)
- エミリ(声優:仲里依紗)
- オーロラ(声優:杉咲花)
- ジンザン(声優:山田孝之)
- ダウンビートおばあちゃん(声優:高畑淳子)
- レイゾウコ(声優:寺尾聰)
- ミスター・バンティング(声優:イッセー尾形)
主演の寺田心さんに関しては、まさに声変わり真っ最中というタイミングでの起用でした。
アフレコ(完成した絵に合わせてセリフを言う)のではなく、プレスコ(収録したセリフに合わせて絵を描く)形式を一部導入したそうです。
登場人物・声優については以下の記事で詳細に紹介していますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。