映画『もののけ姫』は壮大なフィクションではあるものの、人々の出で立ちにはリアリティがあり、時代設定が気になった方は多いのではないでしょうか。
『もののけ姫』の時代設定には「室町時代である」と公式の答えが存在します。
当記事では、『もののけ姫』の時代設定や「時代劇」に関する宮崎駿監督のこだわりを紹介します。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は映画「もののけ姫」を一度は見ている方向けに執筆しています。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『もののけ姫』の時代設定は室町時代
『もののけ姫』の時代設定は室町時代です。
これはジブリの公式本であるロマンアルバムの中でも明記されています。
この作品が舞台とする室町期は混乱と流動が日常の世界であった。南北朝からつづく下剋上、バサラの気風、悪行横行、新しい芸術の混沌の中から、今日の日本が形成されていく時代である。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
以下では宮崎駿監督が室町時代を選んだ理由と、時代設定のこだわりが感じられる描写を紹介します。
室町時代を宮崎駿監督が選んだ理由
宮崎駿監督は室町時代を「おもしろい時代」と表現しています。
日本が「変化」する動乱の時代であり、最も混乱と混沌の時代であったと考えているのです。
室町時代の前、鎌倉時代は、人が主義主張で生きていた。もっと壮絶な人々が生きていた時代です。それが室町時代になると、得なほう、都合のいい方につこうということで動くようになる(笑)。そういう意味で、室町というのは、ちょっとおもしろい時代だなと思ったもんですから。それに、女たちが自由でかっこいいんです。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
「女たちが自由でかっこいい」という点も大きなポイントです。
宮崎駿監督作品は女性が活躍するものは多いですよね。
『もののけ姫』は主人公こそアシタカですが、物語の中心であるたたら場はエボシをリーダーとする女性が活躍する土地でした。
あいまいな流動期、武士と百姓の区別は定かではなく、女達も職人尽くしの絵にあるように、より大らかに自由であった。このような時代、人々の生き死にの輪郭ははっきりしていた。人は生き、人は愛し、憎み、働き、死んでいった。人生は曖昧ではなかったのだ。
二十一世紀の混沌の時代にむかって、この作品をつくる意味はそこにある。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
『もののけ姫』のメッセージは「生きろ」です。
このメッセージを伝えるにあたって、変化の最中にあり、混沌とした様子が室町と現代で重なったのではないでしょうか。
宮崎駿監督の「時代劇」のこだわりを紹介
宮崎駿監督は『もののけ姫』を室町時代の時代劇として描くにあたって、大きなこだわりを持っています。
日本の映画で日本の歴史が描かれると、いつも都を舞台に、侍や、決まった階級の人間しか出てこないことが、おかしいと思っていました。本当の歴史の主人公たちは、辺境の地や野原に住んで、もっと豊かで、奥深い暮らしをしてきたはずなんです。
ジブリの教科書10『もののけ姫』宮崎駿監督インタビューより
つまり、教科書や時代劇で頻繁に登場する「都」や「侍」ではない世界を描きたいというわけです。
たしかに振り返ってみても、『もののけ姫』の登場人物は一般的な時代劇とは大きく異なります。
- アシタカ:エミシの一族の村から追放されたもの
※詳細→かっこいい主人公アシタカ!詳細設定・裏話を紹介! - サン:森へ捨てられ山犬に育てられた少女
※詳細→捨てられたヒロイン・サン!詳細設定・裏話を紹介! - エボシ:たたら場をまとめる女性リーダー
※詳細→エボシ御前の知られざる過去!裏設定や都市伝説を解説!
侍や商人も登場はするものの、名前も与えられない脇役中の脇役です。
その他、『もののけ姫』に登場する「者」や「衣装」も時代設定を踏まえたこだわりが感じられます。
こういった細かい設定や配慮は、さすがスタジオジブリ、さすが宮崎駿監督といったところでしょうか。
- 貨幣経済に関する描写
-
砂金と米の物々交換を申し込んだアシタカが、交換を断られる描写が存在します。(ジコ坊との出会いのシーンです)
これは室町時代には貨幣経済が進んでいたことを受けています。
辺境の地のエミシの一族の村出身のアシタカは貨幣経済に馴染みがないというギャップをさりげなく描いているわけです。
- 石火矢に関する設定
-
日本への鉄砲の伝来は「1543年の種子島、ポルトガルから火縄銃が伝来した」と習った方が多いのではないでしょうか。
一方、『もののけ姫』では「明から伝来した石火矢」と映画内で語られています。
実際に歴史上、明では13世紀頃から石火矢が普及していたとする説が存在します。
倭寇(海賊)を経由して明由来の石火矢が日本に伝来しているというのは、史実を踏まえても違和感のない設定なのです。
ちなみにエボシには倭寇の妻だったという裏設定が存在するため、そういった設定とも辻褄があいます。
かなり緻密に設計されていることが分かりますね。
- 侍の出で立ちに関する設定
-
『もののけ姫』に登場する地侍は、見た目も武器もバラバラです。
これは身分の低い侍は統率が取れておらず、百姓と侍の区別も曖昧だったことを受けています。
スタジオジブリ作品は背景や脇役まで、かなり細かく作りこまれていますので、こういった箇所にも目を向けるとさらに作品を楽しめます。
『もののけ姫』に見られる縄文時代の要素
『もののけ姫』の時代設定は室町時代ですが、実は縄文時代も重要なキーワードです。
本編でははっきり示してはいないが、実は「縄文」はこの作品を語る上での重要なキーワードである。アシタカの村の描写は明らかに、エミシ=縄文人末裔説によっていると思われるし、サンの被る土面にも「縄文」の呪術性が感じられる。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
エミシの一族の村では、特に縄文時代のエッセンスが詰まっています。
ヒイ様の石を並べた(呪術?)の様子などはまさに縄文時代を連想させます。
よく見ると、その背景の壁の模様や土器も、縄文時代を連想させるデザインになっているのです。
縄文時代のアニミズム信仰を踏まえると、物語との関連性が理解しやすいかもしれません。
アニミズム信仰は万物に魂が宿るとする考え方で、いわば石や草木にも神が宿るとする考えかたです。
自然信仰とも言えるこの考え方は、自然を破壊して発展するたたら場とは対照的でしょう。
こうした対比を浮き彫りにするためにも、エミシの一族の村は縄文の色を色濃く描いているのではないでしょうか。
『もののけ姫』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『もののけ姫』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
-
過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
-
インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
-
『もののけ姫』の原作とされています。
※内容は映画と異なり、初期構想のイメージボードです。 - スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
-
『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。