当記事では『もののけ姫』の主人公、アシタカについて紹介します。
「かっこいい」という意見から「嫌いだ」という意見まで、賛否両論あるキャラクターです。
アシタカの設定や裏話について、絵コンテやジブリ公式本等を踏まえて解説しますので、参考になれば幸いです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は映画「もののけ姫」を一度は見ている方向けに執筆しています。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『もののけ姫』の主人公!アシタカの基本情報
アシタカは『もののけ姫』の主人公で、基本情報は以下のとおりです。
本名 | アシタカ |
年齢 | 17歳 |
性格 | 正義感が強くまっすぐ |
出身 | 東北のエミシの一族の村 |
声優 | 松田洋治 |
たたら場では女性陣が群がるほどの人気を見せており、まさに「美男子」として描かれています。
出会う人全てに温かく接し、森とたたら場が「共に生きる道」を模索する姿は、正統派の主人公と言えるでしょう。
よくある誤解!「アシタカヒコ」は名前ではない
アシタカの正式名称を「アシタカヒコ」と解説している方がいますが、これは誤解です。
映画の序盤でヒイさまが「アシタカヒコ」と呼びかけますが、この「ヒコ」は「~さん、~様」のような敬称です。
アシタカの名前は「アシタカ」です(ジブリの各種公式本でも「アシタカ」として紹介されています)
アシタカに関する詳細設定・裏話
『もののけ姫』はセリフからは読み取れない設定が多数存在します。
ジブリ公式本や過去の宮崎駿監督インタビューをもとに紹介します。
誰かに話したくなる裏設定もありますので、ぜひ知り合いに披露してみてくださいね。
アシタカはエミシの村の次期村長
アシタカはエミシの一族の次期村長になることが期待されていた人物です。
大和の王朝との戦いに敗れ、北の地の果てに隠れ住むエミシ一族の数少ない若者であり、一族の長となるべき少年。王家の血を受け継ぐ気品と狩りで鍛えた秀でた技の持ち主。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
エミシ(蝦夷)については諸説がありますが、縄文人を起源とし、東北に移り住んだ部族と考えらえています。
そのためアシタカの村は東北の地であると推測されます。
アシタカが村を出た理由
アシタカは自らの呪いを解く方法を探すため、西の地へ旅立ったと描かれています。
『もののけ姫』の映画内では言葉では語られていませんが、実はアシタカは村から追放されています。
カヤとアシタカの別れのシーンのアフレコの際、宮崎駿監督は以下のように説明しています。
※「もののけ姫はこうして生まれた(徳間書店)」の中に収録されています
- 呪いを受けたアシタカは村から追放された
- マゲ(髪の毛)を切り落としているのは、村では人間でなくなったことを意味する
- 「人」でなくなり追放されたアシタカは二度と村には戻れない
マゲについてはジブリ公式本の中でも以下のように補足されていました。
まげを結うのは成人男子の証であった。故にまげを切ることは、社会の構成員としての資格を捨てることを意味するのだ。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
これを踏まえてそのシーンを見ると、村の老人たちの絶望的な表情にも頷けます。
このシーンはアシタカが旅立ちを決意したように見えますが、実際は村との永遠の分かれを覚悟しているシーンなのです。
アシタカは二度と戻らないことを覚悟しており、実際に『もののけ姫』のエンディングでは「たたら場で暮らす」と宣言しています。
「呪いが解けたのになぜ村に戻らないんだ!」という声も聞こえますが、その背景にはこのような設定が存在します。
アシタカが呪われた理由
アシタカが呪いを受けた理由、それは理不尽以外の何者でもありません。
- 西の地の争いがきっかけでたたり神が生まれた
- たたり神は争いと無関係のエミシの一族の村を襲った
- 村娘たちを守るため、アシタカはたたり神を攻撃し、呪いを受けた
むしろアシタカは村を守ったにも関わらず、呪いを受け、村を追放されてしまいます。
この「理不尽に呪いを受けた」という点は『もののけ姫』のメッセージを理解するうえで重要なポイントになります。
『もののけ姫』が結局何を言いたいのか?
メッセージについては以下の記事で解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
アシタカが二股?女たらしと批判される背景
アシタカはかっこいいと人気のキャラクターである一方で、「女たらし」と批判されることもあります。
その最大の原因はカヤの小刀問題でしょう。
- アシタカが村を去る際、村娘のカヤが想いをこめた小刀をアシタカに贈った
- アシタカは「私もカヤを想おう」と応えた
- その後、アシタカはサンといい感じに・・・
- アシタカはサンにカヤから貰った小刀をプレゼントしてしまう
- アシタカは「たたら場で暮らす」と宣言し、カヤのいる村に帰る様子が無いままエンディング・・
明らかにアシタカがカヤを裏切ったように見えるのです。
ただ実際のところ、アシタカは村を追放された立場であり、カヤとアシタカは二度と会えないことを理解していました。
あまりアシタカを責めてしまうのもかわいそうな話でしょう。
ちなみにカヤは村ではアシタカと許嫁の関係にありました。
カヤの詳細プロフィールや、より深い小刀問題の考察は以下の記事を合わせてご覧ください。
アシタカの唯一の「涙」の理由
どんな時も気丈に振る舞っていたアシタカが唯一涙を流したシーンを覚えていますでしょうか。
サンが干し肉をアシタカに口移しで与えるシーンです。
サンがアシタカに食べさせているのは干し肉です😆🍖
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) October 26, 2018
とても固いものなので傷ついたアシタカにはとても噛みきれず、サンが口でやわらかくして与えているそうです😍😍😍#金ロー #もののけ姫 #サン #アシタカ #干し肉 #シシ神 #ヤックル pic.twitter.com/URBkJPBnJI
かなり独特なキスシーン(キスシーンと呼んでいいのかも迷うくらい)でインパクトがありますよね。
ここで不意にアシタカは涙を流すのですが、その理由は宮崎駿監督をはじめスタジオジブリは明らかにしていません。
そのため、ネット上では様々な考察が発信されています。
- シシ神に触れても呪いが消えなかった悔しさ
- 人に甘えて生きていいんだという思いになった
- 生きていることへの感謝・・・等々
面白い考察ではあると思いつつ、当サイト(まつぼくらぶ)では新たな理由を考察させてください。
アシタカの涙の理由は「生きろと言われたから」という説です。
振り返れば、このサンとの口移しのシーンまでのアシタカはひどい仕打ちを受け続けていました。
- 村を守るための行動が、呪いを貰うことになった
- 長になるはずだった村を追放され、許嫁とも別れた
- 死の呪いを受けた体で遠い西の地へ旅立った
- 見知らぬ土地の争いに巻き込まれ、銃弾を受けた
アシタカは常に気高く、優しく振る舞っていたものの、実際は「いつ死ぬかも分からない」状態だったのです。
常に不安な心理状態の中、かすかな希望を探して見知らぬ土地を旅していたのです。
銃弾を受け、弱り切った状態でのサンの口移しは、大きな愛情を感じたのではないでしょうか。
『もののけ姫』のキャッチコピーでもある「生きろ」と言われた瞬間です。
常に死を覚悟した緊張状態の中で、ふと「生きろ」というメッセージを感じたことで緊張の糸が途切れ、涙が流れたのではないでしょうか。(そしてアシタカのサンへの想いが深まった)
公式な回答はありませんが、当サイトではこの説を推します。
アシタカとサンのその後
アシタカのサンのその後については、様々な説が存在します。
- 結婚して子供が出来ている(そしてその子孫が千と千尋の「千尋」である)
→千尋が名前を書く際に「荻野」の「火」の部分を「犬」と書いたことで広まった都市伝説です - サンを連れてエミシの一族の村に帰る
→宮崎駿監督が「村に帰るとしたら、サンも一緒でしょうね」と発言したことで広まった説です
あくまでも「帰るとしたら」という仮定の話なので、アシタカの旅立ちの経緯を踏まえると可能性は低いです - サンは森で、アシタカはたたら場で暮らす
→『もののけ姫』のアシタカのセリフのとおりです。
宮崎駿監督の発言を見ても、この説が一番有力です。
サンとアシタカのその後については、基本的には映画のセリフ通りに受け取っておけば良いでしょう。
サン「アシタカは好きだ。でも人間をゆるすことはできない」
アシタカ「それでもいい。サンは森でわたしはタタラ場でくらそう。共に生きよう。会いにくいよ。ヤックルに乗って」
結婚して子孫が「千尋」という説や村に帰ったという説もありますが、少々ぶっ飛んだ都市伝説です。
根拠はありません。
ちなみに『もののけ姫』の絵コンテ集の中でも宮崎駿監督が「サンとアシタカはしょっちゅう会っている」とコメントを残しています。
「会っている」ということは少なくとも一緒に暮らしているわけではなさそうですよね。
『もののけ姫』のタイトルは『アシタカせっき』だった
宮崎駿監督は映画を作る際、『アシタカせっき』というタイトルを考えていました。
草の陰で人の耳から耳へと伝わった物語という意味が込められています。
ただ、『アシタカせっき』よりも『もののけ姫』のタイトルを気に入っていた鈴木敏夫プロデューサーは、勝手にテレビで『もののけ姫』のタイトルを公表してしまったのです。
その結果、タイトルは『もののけ姫』で確定しました。
なお、このような制作秘話や原作については以下の記事でまとめていますので、ぜひ合わせてご覧ください。
主題歌はアシタカからサンへの想いを歌ったもの
主題歌を歌った米良美一さんがインタビューの中で、主題歌について宮崎駿監督のコメントを明らかにしています。
「この歌は、アシタカのサンへの気持ちを歌った歌なんです。アシタカの心の中の声、です」と(編注:宮崎駿監督が)言ってくださったんです。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
『もののけ姫』の主題歌は短い歌詞ですが、それはアシタカの想いを歌った歌なのです。
多くを語らないアシタカだからこそ、短い歌詞が似合いますよね。
ぜひこの前提で曲を聞いてみてくださいね。
『もののけ姫』におけるアシタカの名セリフ
『もののけ姫』のキャッチコピーは「生きろ」です。
そのコピーの通り、アシタカのセリフには生死に関するメッセージが多く含まれています。
ここでは、中でも魅力的な3つのセリフを紹介します。
- みすみす死ぬな。退くも勇気だ!
-
たたら場に無謀にも乗り込んだサンへの一声です。
- 生きろ。そなたは美しい。
-
たたら場からサンを連れ出した瀕死のアシタカがサンに向けた名セリフです。
正確には以下のような流れで生まれています。
アシタカ「生きろ…」
サン「まだ言うか!人間の指図はうけぬ!」
アシタカ「そなたは美しい…」山犬にも人間にもなりきれない、自身を醜いと感じているサンにとっては衝撃的な一言だったのでしょう。
この一言の後、サンのアシタカに対する態度が少しずつ変わり始めます。
- まだ終わらない。私たちが生きているのだから。
-
森が死に、絶望するサンへのセリフです。
「どんなに絶望的な状況でも、生きている限り終わりではない」という『もののけ姫』のメッセージ性を感じるセリフです。
アシタカの声優は舞台役者の松田洋治さん
ジブリ作品はプロの声優の起用が少ないことで知られますが、アシタカの声も本業は声優ではありません。
舞台役者として主に活動している松田洋治さんです。
松田洋治さんの基本情報
名前 | 松田洋治 |
生年月日 | 1967年10月19 |
本職 | 舞台役者 |
主な声優出演 | アスベル(風の谷のナウシカ) ジャック・ドーソン(タイタニック・吹替) |
『風の谷のナウシカ』でアスベル役も務めており、ジブリとは縁のあった人物です。
縁はあったものの、アシタカの声優はオーディションで勝ち取ったことが過去のインタビューで明らかになっています。
今回、松田さんへのインタビュー後の雑談の中で、オーディションがあったことが判明。そして松田さんは、特報で流れた「あの子を解き放て。あの子は人間だぞ」のセリフがオーディションの際の録音だと告白した。オーディション用の簡単な説明だけでアシタカになった松田さん。声の存在感も演技も、よほど宮崎監督のイメージにぴったりだったのだろう。
ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)より引用
オーディションの音声がそのまま特報版に採用されるなど、はまり役だったというわけですね。
ちなみにその特報はYouTubeでも見ることが出来ます(↓)
以上、アシタカについて紹介してきました。
深みのある魅力的なキャラクターですので、ぜひあらためて『もののけ姫』を見てみてくださいね。
『もののけ姫』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『もののけ姫』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の原作とされています。
※内容は映画と異なり、初期構想のイメージボードです。 - スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。