当記事では『ハウルの動く城』のヒロイン・ソフィーについて解説します。
ソフィーは90歳のおばあちゃんという異色のヒロインです。
ジブリ公式本や原作、関係者インタビューをもとに、意外と知られていない裏話も紹介します。
『ハウルの動く城』の登場人物については以下の記事でまとめていますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
ソフィーの特徴・基本設定
名前 | ソフィー・ハッター |
年齢 | 18歳↔90歳 |
一言プロフィール | 帽子屋で働く勤勉な娘 自分に自信がなく、やや卑屈 |
声優 | 倍賞千恵子 |
ソフィーは呪いで90歳のおばあちゃんになってしまいました。
本来は帽子屋で働く18歳の少女ですが、物語の大半は老婆の姿である異色のヒロインです。
ここでは、以下の観点でソフィーの特徴を紹介します。
- 自己肯定感が低くネガティブ
- 強引で積極的なおばあちゃんモード
- 声優は倍賞千恵子さん
順番にご覧ください。
自己肯定感が低くネガティブ
物語の序盤、ソフィーはネガティブな様子が描かれています。
一見すると愛想よく振る舞っているのですが、しっかりと観察すると自己肯定感が低い様子が見て取れます。
- 鏡に映った自分の姿を見てムッとする
- 顔が見えにくいように帽子を深くかぶる
- ため息をつきながら仕事をしている
- 「自分のことは自分で決めなきゃ」と妹のレティ―から心配される
こうした描写から、ソフィーが自分に自信が無いことが理解できるのです。
極めつけはハウルの髪色が変わって癇癪を起した場面です。
ソフィーは「わたしなんか美しかったことなんか一度もない」と叫び、城を飛び出してしまいます。
ある意味「ジブリのヒロイン」っぽくないソフィーですが、『ハウルの動く城』はソフィーが自信を獲得し、自分に正直になっていく物語でもあるのです。
強引で積極的なおばあちゃんモード
物語の序盤でおばあちゃんになってしまうソフィーですが、変わったのは見た目だけではありません。
仕草や言葉遣い、性格までおばあちゃんらしくなってしまうのです。
控えめで引っ込みがちだったソフィーが、おばあちゃんモードでは堂々と(むしろ強引な)動きを見せます。
これについて、『ハウルの動く城』作画監督の山下さんは以下のように語っています。
僕は最初、ソフィーは単に魔法をかけられて姿がおばあさんになった少女だと思っていたんです。だけど、違うんですよ。あれはおばあさんになった時のソフィーなんです。
ジブリの教科書『ハウルの動く城』より引用
声優は倍賞千恵子さんが担当
ソフィーは18歳から90歳まで、様々な声が特徴的ですが、これはすべて女優の倍賞千恵子さんが演じています。
ソフィーの声優は人選が難航したことを、鈴木敏夫プロデューサーはインタビューの中で明かしています。
ソフィーの声については人選が難航しました。
宮さんが出した「18歳から90歳までひとりの女優さんに演じてほしい」という条件がネックになったのです。
ジブリの教科書『ハウルの動く城』より引用
このエピソードを踏まえて映画を見てみると、ソフィーの声色は細かく演じ分けられていることが分かります。
18歳と90歳の2パターンだけではなく、ソフィーの状態に応じて演じられています。
ここまで幅広い演技ができるのは、大女優・倍賞千恵子さんならではと言えるでしょう。
ソフィーに関する裏話
『ハウルの動く城』の映画を見ているだけでは分からない、ソフィーに関する裏話を紹介します。
ジブリ公式本の内容や関係者インタビューをもとに解説しますので、参考になれば嬉しいです。
ソフィーはハウルと結婚する
ハッピーエンドで終わる『ハウルの動く城』ですが、実は原作ではハウルとソフィーは結婚します。
原作に描かれたハウルのプロポーズの言葉がこちら↓
「ぼくたちって、これからいっしょに末永く幸せに暮らすべきなんじゃない?」
ハウルが本気で言っていることは、ソフィーにもよくわかっていました。
『魔法使いハウルと火の悪魔』より引用
『ハウルの動く城』の原作の続編では、ハウルとソフィーの子どもも登場します。
ソフィーは実は魔法使い
ソフィーは実は魔法使いです。
原作でははっきり描かれているのですが、映画では明確な説明はありません。
物に命を吹き込む力ですね。
ほら、その杖もあなたに話しかけられたおかげで、世間でいう魔法の杖になっていますもの。
『魔法使いハウルと火の悪魔』より引用
原作の設定を解説!
ソフィーは言葉にしたこと物に吹き込む魔力を持っています。
例えば、「これを被った人がお金持ちと結婚できますように」と思いを込めて帽子を作れば、その帽子を被った人は本当にお金持ちと結婚してしまいます。(映画でもソフィーのお母さんがお金持ちと再婚する描写がありますが、このソフィーの力のおかげだということが原作でははっきり描かれています)
映画のラストでカルシファーが元気に戻ってきたのも、このソフィーの魔法が影響しています。
カルシファーはハウルの心臓をエネルギーに生きていました。
裏を返せば、心臓を失うとカルシファーは本来死んでしまう運命なのです。
カルシファーが生き延びた理由は、ソフィーの魔法の力のおかげだったのです。
ソフィーには2人の妹が存在する
ソフィーは三姉妹の長女です。
映画ではカフェ「チェザーリ」で働く妹のレティーが登場しますが、原作ではもうひとりの妹が存在します。
その名はマーサで、原作では魔法の修行に励む主要人物です。
映画においてはその姿を見せることはありませんが、ところどころのセリフでその存在を感じられます。
お針子の雑談「ねえ聞いた?南町のマーサって子ハウルに心臓とられちゃったんだってね」
老婆になったソフィーを荷馬車に乗せた羊飼いの会話
女性「これから中折れ谷にいくのー?」
羊飼い「末の妹がいるんだってさ」
【考察】ソフィーはなぜ若返るのか
『ハウルの動く城』の見どころが、ソフィーの見た目の変化です。
物語のラストで呪いが解けて若返るのではなく、物語の途中で何度も若返った姿を見せています。
この様子に混乱した方も少なくはないでしょう。
ここでは、以下の観点でソフィーが若返る現象について考察します。
- 二重の呪い?ソフィーの呪いの正体
- ソフィーの姿はソフィーの心理状態と連動
- ソフィーの呪いが解けたタイミング
順番にご覧ください。
二重の呪い?ソフィーの呪いの正体
まずはソフィーの呪いの正体を考察しましょう。
映画内や原作のセリフ等から、ソフィーの呪いは二重の呪いである可能性が高いです。
- 荒地の魔女の呪い
- 自分自身でかけている呪い(自己暗示)
ソフィーの呪いがこのような二重構造となっていると考える根拠について、いくつか列挙してみます。
- カルシファーのセリフ
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「こんがらがった呪いだね。この呪いは簡単には解けないよ」
カルシファーとソフィーが出会った際のセリフです。
これだけで二重と断定はできませんが、単純なひとつの呪いではないことがほのめかされています。
- 原作ハウルのセリフ
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原作のハウルのセリフはさらにストレートです。
強力な魔法を見たら、気づくに決まってるだろうが。あんたが気づかないうちに、何度か呪いを解こうとしてみたんだ。(中略)
でもダメだったみたいだ。そこでぼくとしては、あんたが好きで変装していると思うしかなかった。
『魔法使いハウルと火の悪魔』より引用「好きで変装している」という、ソフィー自身が呪いをかけていることを考えさせられるセリフです。
- 公式本(ロマンアルバム)の解説
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ロマンアルバムでははっきりと二重の呪いである可能性が示されています。
公式見解とみても問題ないでしょう。
荒地の魔女がかけた呪いに上乗せして、ソフィーが自分自身に暗示をかけてしまったと捉えることもできるのではないだろうか。
自分という存在に自信が持てなかったソフィーが、姿形が変わったことを幸いに、自分自身から逃げようとしていたと解釈すれば、気分によって年齢が上下していたのも納得できる。
ハウルの動く城 ロマンアルバムより - 絵コンテの補足書き
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ハウルが花畑で「ソフィーはきれいだ」と言った場面では、それまで少女の姿に戻っていたソフィーがあっという間に老婆に変わります。
このシーン、絵コンテでは「なんてガンコな呪いなんだ。もうソフィーの呪いはとっくにとけてるのに…」というハウルの心情が補記されています。
この時点では荒地の魔女の呪いは解けており、ソフィー自身の呪いで老婆の姿を保っていると考えられます。
これらの情報を踏まえると、ソフィーの呪いは以下の二段階構造と理解できます。
- 荒地の魔女の呪い
→荒地の魔女によって強制的に老婆にされてしまった - 自分自身でかけている呪い(自己暗示)
→荒地の魔女の呪いに便乗して、自分自身で好き好んで老婆の姿となっている
(自分の本来の姿や本心を隠すために、呪いを利用している)
ソフィーの姿はソフィーの心理状態と連動
ソフィーの姿は映画の中でも頻繁に変化します。
本音(素顔)をさらけ出している場面や、堂々とした場面では少女の姿に戻ります。
- 眠っているとき
- サリマンに向かってハウルについて語るとき
- 花畑でハウルと楽しく過ごしているとき
- 物語終盤(ハウルを必死に救出しようとするとき)
ソフィーの呪いが二重構造だとして、荒地の魔女の呪いとソフィーの心理が連動するのは不自然です。
このような描写はソフィー自身でかけてしまった自己暗示が弱まった状態と言えるでしょう。
なお、ロマンアルバムに掲載された鈴木敏夫プロデューサーのインタビューでは、宮崎駿監督の発言が紹介されています。
彼は「わかったよ鈴木さん。人間なんて気持ち次第で同じ人が90歳のおばあちゃんになったり、ある時は50代のおばちゃんになったりする。そういうことで言うと、ソフィーも気分によっては少女になるってあるんじゃない?」と言い出した。こういうことから映画は膨らみを持ち始めるんですよ。
ハウルの動く城 ロマンアルバムより
実際に原作では、ソフィーの見た目がコロコロ変わる描写はありません。
宮崎駿監督のオリジナルの設定と言えますね。
ソフィーの呪いが解けたタイミング
それではソフィーの呪いはどのタイミングで解けているのでしょうか。
カルシファーとソフィーの取引(カルシファーの呪いを解けば、ソフィーの呪いも解いてやる)を踏まえると、物語のクライマックスでしょうか。
カルシファーの呪いを解くと同時にソフィーの呪いが解けたと考えるのが自然です。
ただ、ソフィーの呪いが二重構造であることを踏まえると、当サイトでは以下の説を推したいです。
- 荒地の魔女の呪い
→ハウルが早々に解いている - 自分自身でかけている呪い(自己暗示)
→ハウルでも解けない。ソフィーが素直になった物語終盤で解けた
原作のセリフや、絵コンテの描写を踏まえても、ハウルはソフィーの呪いに気づいています。
気づいたうえで、呪いを解こうと努力しています。
強力な魔法を見たら、気づくに決まってるだろうが。あんたが気づかないうちに、何度か呪いを解こうとしてみたんだ。(中略)
でもダメだったみたいだ。そこでぼくとしては、あんたが好きで変装していると思うしかなかった。
『魔法使いハウルと火の悪魔』より引用
絵コンテの描写のとおり、「呪いはとっくにとけている」のでしょう。
ハウルでも解けなかったのは、ソフィー自身がかけてしまっている呪いなのです。
では、ソフィー自身がかけている呪いはどこで解けているのでしょうか。
ターニングポイントとなるのが、物語終盤、ソフィーが髪の毛をカルシファーに差し出すシーンです。
実は絵コンテでは、このシーンに「ヒロインようやく登場!!」と書かれています。
このショートカットになった瞬間が、ソフィーが呪いが解けたタイミングではないでしょうか。
このあたり以降、ソフィーは老婆の姿を見せません。
ハウルを救うために全力で努力します。
自分自身に素直になり、本心に従って行動するようになったことで呪いが解けたのではないでしょうか。
『ハウルの動く城』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『ハウルの動く城』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書13 ハウルの動く城(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム ハウルの動く城(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 ハウルの動く城(徳間書店)
- The art of HOWL’S MOVING CASTLE―ハウルの動く城(徳間書店)
- ジブリの教科書13 ハウルの動く城(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム ハウルの動く城(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- スタジオジブリ絵コンテ全集 ハウルの動く城(徳間書店)
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『ハウルの動く城』の制作に使用された絵コンテです。
- The art of HOWL’S MOVING CASTLE―ハウルの動く城(徳間書店)
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
ポチップ
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