『千と千尋の神隠し』に登場するお母さん、お父さんは宮崎駿作品の中では異色です。
どこか自分勝手で、冷たいイメージを感じるキャラクターになっています。
千尋の意見を聞かなかった結果、ついには豚の姿になってしまいました。
当記事では、千尋の両親の設定について紹介します。
後半ではお母さんが冷たい理由も考察しますので、参考になれば幸いです。
『千と千尋の神隠し』の登場人物については以下の記事でまとめていますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
千尋のお母さん(荻野 悠子)の設定
千尋のお母さんの本名は荻野悠子です。
簡単なプロフィールは以下のとおりです。
名前 | 荻野 悠子(お母さん) |
年齢 | 35歳 |
一言プロフィール | 現実的で気が強い |
声優 | 沢口靖子 |
宮崎駿監督作品では異例のクールなお母さん
宮崎駿監督の描くお母さんは、どちらかといえば優しくて温かいイメージが強いのではないでしょうか。
『となりのトトロ』のサツキとメイのお母さんのイメージですね。
これに比べると千尋のお母さんはかなりクールに描かれており、作画監督の安藤さんも以下のように語っています。
これまでの宮崎作品にはいない現代的でクールな女性。宮崎さんの描くお母さんは、包容力のある、優しい系の女性ですが、悠子さんは逆のタイプですね。
The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)より
宮崎駿監督作品では珍しいタイプだったので違和感を感じた方もいるのではないでしょうか。
『千と千尋の神隠し』は現代を生きる子どもたちをターゲットにした映画だからこそ、現代的なリアルなお母さんを描いたのでしょう。
千尋に対して冷たくて怖い?
千尋のお母さんは「冷たくて怖い」と言われることが多いです。
スタジオジブリ公式Twitterに以下のような質問が寄せられるほどです。(ジブリ公式Twitterは『君たちはどう生きるか』の公開後、目的を終えてアカウント削除されています…もったいない…)
Q:千尋に対してお母さんがちょっと冷たい感じがします。何か理由があるのか、もともとクールな人なのか、 ずっと気になってます。
ちなみに、この回答がこちら
A:作画監督の安藤雅司さんは、宮﨑作品に出てくるお父さん、お母さんイメージではなくしたかったと語っており、「クールで家族の和が乱れるところにいない人」を意識して設定したそうです。
やはり意図的に冷たいイメージを演出しているのですね。
また、お母さんの声優を務めた女優の沢口靖子さんは、インタビューで以下のように明かしています。
宮崎監督からは「あまり子どもに対してきちんと正対しているお母さんではなくて、お父さんが言うことにわりといつも反対する現実的なお母さん。でも最終的にはお父さんの言うことに従っている。そんな感じを出してください」と言われまして、そのことも意識してやりました。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
たしかにお母さんと千尋は目が合うことも少なく、きちんと正対しているようには描かれていません。
アフレコでも指導されていることを踏まえると、お母さんの冷たいイメージは徹底して作り上げているようですね。
なぜお母さんを冷たいイメージに仕上げる必要があったのかについては、後半で考察します。
千尋のお父さん(荻野 明夫)の設定
千尋のお父さんの本名は荻野明夫です。
簡単なプロフィールは以下のとおりです。
名前 | 荻野 明夫(お父さん) |
年齢 | 38歳 |
一言プロフィール | 楽天的で体育会系 |
声優 | 内藤剛志 |
楽天的で自由に突き進むあまり、豚になってしまいます。
職業は建築業
絵コンテの中で、お父さんの職業が明らかになっていました。
トンネルを調べて「なんだモルタル製か」と発言するシーンで、「お父さん建築業なんです。壁をなでたりして材質を調べている」と補足されています。
「テーマパークの残骸だ」と決めつけてみるなど、不思議なものを認めず、現実的に理解しようとするタイプであることも読み取れます。
モデルとなった人物
作画監督の安藤さんによると、はっきりとしたモデルはいません。
作品のイメージをもとに、じょじょに作り上げたことが語られています。
モデルはいません。最初、宮崎さんの知人のプロデューサーをモデルにして、太ったお父さんを描いたんですが、そうすると年を取りすぎた印象になってしまうんですね。
それと、卑しくものを食べてしまう図々しさを表現しなくてはならないので、最終的に、見てくれとしては、厚かましさのある、少し能天気な印象に感じられるような体育会系のお父さんにしてみました。
The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)より
なお、最初にモデルとなったと言われる知人のプロデューサーは、当時日本テレビの奥田誠治さんです。
そもそも千尋のモデルは奥田さんの娘の千晶さんであることが、宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーによって明かされています。
なので当初は当然、お父さんも奥田さんがモデルになっていたのです。
ところどころに奥田さんのイメージも残っているようで、お父さんが料理を選ぶシーンでは「ライブが見たい人は奥田さんとバイキングに自費で行ってください」と書かれてたりします(笑)
【考察】千尋のお母さんはなぜ冷たいのか
お父さんもなかなか自由奔放で自分勝手に見えますが、特に印象的なのはお母さんです。
千尋と目を合わせることも少なく、冷たくて怖いイメージを持ってしまいます。
何か深い理由があるのでしょうか。考察してみます。
【当サイト考察】「千尋の態度にイライラしているから」説
『千と千尋の神隠し』は10歳の少女を主人公とし、10歳の少女をターゲットに作られています。
だからこそ、現代の少女たちが共感できる「リアルな家族」を描く必要があったのです。
この前提に立った時、決してお母さんは冷たいわけではないのでは・・?という考えに至りました。
映画として、宮崎駿監督作品として見てしまうため、観客は冷たいイメージを持ちました。
ただ、冷静に考えると、実際のお母さんって「こんなもん」ではないですか?
資料を読み焦っていたところ、裏付けとなるインタビューでの宮崎駿監督の発言も発見しました。
スタッフがお母さんを優しく描いたから、「だめ」って言ったんです。(中略)
いや、別に優しくないわけではなくて、特別な日にはお母さんも優しい顔するかもしれないけど、日常的には忙しいから、例えば引っ越ししている最中にね、娘に優しい顔なんかしてられないから「何やってんの」って言うに決まってる。
千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)より
お母さんの頭の中は引っ越しのことでいっぱいで、ニコニコと千尋に構っている余裕なんてないのです。
ここで優しいお母さんを描くのは「リアル」ではなく、むしろ映画を見ている子どもたちに違和感を与えるかもしれません。
さらに言えば、千尋は映画冒頭で不機嫌です。
転校が嫌で車の中では不貞腐れ、後部座席でダラダラと横になっています。
引っ越しで忙しい中、このような態度を取り続ければ、お母さんがイライラするのも仕方ないでしょう。
お母さんの声優の沢口靖子さんもこの点は意識していたようで、以下のように語っています。
物語の冒頭の引っ越し先へ移動する車の中でダラッとしている子どもに少しイライラしながらサラッと言葉を交わすというのは少し難しかったです。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
映画を見る時は、どうしても「主人公の千尋」として千尋に感情移入しがちです。
だからこそ、「両親は千尋の言うことを全く聞かない(その結果、豚になった)」という風に見えてしまいます。
ただ、視点を変えると、「親のやることなすことに文句を言う娘」という風にも見ることができます。
車の中の不貞腐れた態度の延長で考えると、少なくともお母さんには千尋が「文句を言う娘」に見えていたでしょう。
だからこそ、お母さんはイライラし、千尋に冷たい態度を取っているのです。
宮崎駿監督に言わせれば、ここで優しいお母さんを描く方が「ダメ」なのです。
実際にところどころでは千尋に優しい表情も見せています(電車の音に気が付いた時や、料理を勧める時など)
『千と千尋の神隠し』のエンディング以降の世界では、新居でほっと一息ついて優しい表情を見せているのではないでしょうか。
【都市伝説?】「亡くなった兄が存在するから」説
映画評論家の岡田斗司夫さんが提唱する説に、お母さんが冷たいのは「亡くなった兄が理由」とする説です。
簡単に紹介すると以下のような内容です。
- 千尋にはかつて兄がいた
- 千尋が川で溺れたときに、救助を試みた兄は亡くなってしまった
- この兄こそがハクなのである
- 両親は千尋に兄の存在を隠している(千尋も幼かったので覚えていない)
- 兄のことを引きずっているお母さんは、心から千尋を愛せずにいる
面白い説だとは思いますが、飛躍しすぎな印象も受けました。
この説の根拠としては以下のようなものが挙げられています。
- ハクが千尋のことを知っていた
- お母さんが違和感を感じるほどに冷たい理由が他に説明できない
- 千尋が川に落ちた場面を回想するシーンに、「兄の手」と思われる手が描かれている
ハクが千尋のことを知っていたのは、千尋がコハク川に落ちたからです。
実際にハクのセリフにも「私の中に落ちたとき・・・」というものがあります。
お母さんが冷たい理由は、先ほどの当サイトの考察のとおりです。
そうなるとポイントは、「兄の手」が描かれているという指摘でしょうか。
川に落ちた場面を回想するシーンとは、以下の一連の場面です。
この時、川面に向かって手を指し伸ばす描写も描かれています。
(絵コンテでは以下のとおり、「サーっとのびていく子供の手」と書かれています)
これが落ちた子どもの手なのか、助けようとしている子どもの手なのか、絶妙に分かりにくいのです。
このシーンに対して、岡田斗司夫さんは以下のとおり指摘しています。
- この場面、千尋は裸である(先ほどの画像ご参照。たしかに、肩は素肌が描かれています)
- 子どもの手には、半そでの服が描かれている(先ほどの絵コンテでは分かりにくいですが、実際の映画では描かれています)
- 千尋は裸なので、半そでの手は別の人間のものである
- その人間こそが、千尋を助けようとして亡くなった兄なのだ
さすが岡田さんの着眼点です。非常に面白い考察です。
ただ、裸のように見える千尋はあくまでも今の(10歳の)千尋なんですよね。
裸の千尋は当時を思い出している「今の千尋」の演出で、半そでの手は川に落ちた「当時の千尋」とも考えられます。
幼い千尋が裸で描かれ、そこに半そでの手が登場したのなら、かなり信憑性は上がるのですが・・
やはり飛躍しており「これが答えだ!」と語るには根拠として弱いでしょう。
ただ、考察としては面白いですし、解釈はあくまでも見る人の自由です。
あなたはお母さんが冷たい理由について、どのようにお考えでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
『千と千尋の神隠し』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『千と千尋の神隠し』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
- The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
- 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
- ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- スタジオジブリ絵コンテ全集 千と千尋の神隠し(徳間書店)
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『ハウルの動く城』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ - The art of Spirited away―千と千尋の神隠し(徳間書店)
-
イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
編集:スタジオジブリ¥3,038 (2023/04/28 09:06時点 | Amazon調べ)ポチップ - 千と千尋の神隠し 千尋の大冒険(ふゅーじょんぷろだくと)
-
独自インタビュー等、ここでしか知ることができない貴重な情報が掲載されています。
既に絶版となっており、プレミア価格がついている貴重な書籍です。
(当サイトも入手には苦労し、図書館でなんとか借りることができました)ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。