【On Your Mark】アニメ版のあらすじと宮崎駿監督の狙いを考察

Q: 『On Your Mark』のあらすじは？

荒れた世界で、警官の2人が翼の生えた女の子を救出するストーリーです。 ※詳細はこちらをチェック⇒ あらすじを読む

Q: 『On Your Mark』はどんな世界が舞台？

放射能で汚染された、荒廃した世界が舞台です。 ※詳細はこちらをチェック⇒ 考察を読む

Q: 翼の生えた少女の正体は？

放射能に汚染された世界でも生きられる生命体で、人類の、そしてチャゲとアスカの希望です。 ※詳細はこちらをチェック⇒ 考察を読む

Q: 警官（チャゲとアスカ）は最後にはどうなった？

不自然に車が停車しており、死亡したと考えられます。 ※詳細はこちらをチェック⇒ 考察を読む

Q: 『On Your Mark』は『風の谷のナウシカ』の前日譚？

2つの作品は共通点があまりにも多く、関連していると考えるのが自然です。 ※詳細はこちらをチェック⇒ 共通点の考察を読む

2023年10月13日

ジブリアニメ『On Your Mark』は宮崎駿監督の短編アニメーションです。

CHAGE and ASKAのコンサート用の映像として作られた音楽映画です。

セリフが無い作品ですが、細部まで作りこまれており、名作と称賛するジブリファンは多いです。

当記事ではこの知る人ぞ知る名作『On Your Mark』について、あらすじを紹介し、宮崎駿監督の意図を徹底考察します。

筆者のプロフィール

スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」

当記事は『On Your Mark』を徹底解説します。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
また、『風の谷のナウシカ』の原作に関するネタバレも含みますのでご注意ください。

ジブリアニメ『On Your Mark』の基本情報

『On Your Mark』の基本情報は以下のとおりです。

作品名	On Your Mark
原作・脚本・監督	宮崎駿
上映時間	6分48秒（本編6分40秒）
公開日	1995年7月5日 ※CHAGE and ASKAのコンサートにて
劇場公開	1995年7月15日 ※『耳をすませば』との同時上映
テレビ放送	2005年8月26日 ※『猫の恩返し』との同時放送

CHAGE and ASKAの楽曲「On Your Mark」に乗せて進行するストーリーで、セリフはありません。

『On Your Mark』のあらすじ・ストーリー詳細解説

『On Your Mark』のあらすじは「荒れた世界で、警官の2人が翼の生えた女の子を救出するストーリー」です。

警官2人のビジュアルはまさにCHAGEとASKAそのもので、CHAGE and ASKAの2人がモデルとなっています。

なお、CHAGE and ASKAの楽曲「On Your Mark」の歌詞は、挫折してもあきらめず、何度も前を向く二人の様子が歌われています。

宮崎駿監督はこの歌詞を曲解して『On Your Mark』を作ったと語っています。

「位置について」という意味のタイトルだけれど、その内容をわざと曲解して作っています。
（中略）
言いたいことを体制から隠すために、隠語にして表現した曲と考えてみた。ちょっと悪意に満ちた映画なんです（笑）
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

この言葉のとおり、アニメ『On Your Mark』にはいわゆる「闇」を感じさせる描写が多数登場します。

CHAGE and ASKAの爽やかな楽曲と対照的に、どこか重たい雰囲気の漂うアニメーションは様々な考察を生み、話題となりました。

以下、『On Your Mark』の詳細なストーリーを順を追って紹介します。

地下都市で監禁された少女の発見

ストーリーは不気味な建造物をバックに、1台のトラックが走るところから始まります。

美しい青空と対照的に、電柱は傾き、周囲の家々も廃れている様子がわかります。

このたった1シーンで、観客には「これはただの平和な世界の話ではないぞ」と予感させます。

場面は変わり、警察がカルト教団を連想させる「聖NOVA’S CHURCH」の拠点に乗り込みます。

映し出された都市のど真ん中に拠点を構える「聖NOVA’S CHURCH」は、その世界で相当な力を持っていると想像できます。

「聖NOVA’S CHURCH」の拠点に飛行機で突っ込んだ警官達は、容赦なく銃撃や爆撃を開始し、「聖NOVA’S CHURCH」の教徒達を一人残らず抹殺します。

この警察に所属しているのが、主人公となるチャゲとアスカです。

バックに流れる楽曲の歌詞「そして僕らは　いつもの笑顔と姿で～」とストーリーはリンクしており、この残酷な仕事が警官達にとっての日常（いつもの姿）なのです。

虐殺とも呼べる激しい戦闘シーンの中、チャゲとアスカは鎖で繋がれた「翼の生えた少女」を発見します。

すると場面は一転、青空の下を少女とともにオープンカーで疾走する様子が描かれます。

あまりにも突然場面が切り替わるため、やや混乱する方もいると思います。

ただ、少なくとも幸せに見えるこのシーンで「なるほど、この物語はこの少女を救出する話なのだな」と理解できるのです。

ハッピーエンドを予感させる1シーンと言えるのでしょう。

ここまでが冒頭から約2分のストーリーです。

時間がループする？少女の救出作戦

楽曲がサビに入る中で、再び場面が「少女発見」のシーンに戻ります。

少女を救出したチャゲとアスカは、防護服を着た仲間に少女を引き渡し、去っていく様子を静かに見送ります。

「聖NOVA’S CHURCH」での仕事を終えたチャゲとアスカは、居酒屋に場面を移します。

少女のことが頭から離れない様子で、重たい雰囲気を漂わせています。

その後チャゲは何か機器を作り、アスカはパソコンを操作します。

少女に関する何らかの作戦が始動していることが推測できる1シーンです。

パスコンからアスカが何かを発見し、驚きとも喜びとも見える表情を見せます。

再び場面は居酒屋に移りますが、今度は意を決した表情を見せる二人。

そして研究施設に乗り込み、見後に少女を発見します。

少女の救出には成功するものの、警備に見つかり、逃亡劇の開始です。

少女を連れたチャゲとアスカは、追手から逃れるためにトラックに乗り込みます。

懸命に逃亡を試みるものの、途中で警察車両に見つかってしまい、トラックは破壊されます。

高い位置でトラックが大破したため、3人は地下へと落下していきます。

チャゲとアスカは少女だけでも逃がそうと、「飛べ！飛べ！」とジェスチャーを見せますが、少女は飛ぶことはなく、そのまま3人の姿は地下深く見えなくなってしまいます。

ここで楽曲は大サビに突入。

場面は再び「少女発見」のシーンにループします。

ここまでの流れと同じように、テンポよく「少女救出」→「トラック乗込」と場面は進み、同じようにトラックが破壊されます。

・・・が、ここではトラックは落下せず、なんと空を飛び逃亡に成功します。

ここまでで大体5分30秒ほどです。

地下都市からの脱出

警察を振り切った3人は、不気味なトンネルをオープンカーで疾走します。

トンネルには「日光に注意」「生命の保障はしない」等の電光掲示板が並んでおり、不穏な雰囲気が漂っています。

電光掲示板を気にすることもなく、歓喜の様子で車は青空の下に出ます。

青空の下でチャゲとアスカは少女を解放し、少女は天高く飛び立っていきます。

空高く少女を車からチャゲとアスカが見送る場面で、物語は終わりです。

チャゲとアスカが少女を青空に解き放って「ハッピーエンド」と見えますね。

『On Your Mark』を考察　宮崎駿監督の狙いは？

『On Your Mark』の基本的なストーリーはここまで紹介したとおり、「荒れた世界で、警官の2人が翼の生えた女の子を救出する」です。

一方で、この短い物語の中には数々の要素が散りばめられており、宮崎駿監督の狙いを考察するのが楽しい作品でもあります。

宮崎駿監督は過去のインタビューで、以下のように語っています。

暗号のようなものは、いっぱい入れてあるけれども、音楽映画だから、見た人の感じたように受け取ってもらってかまわないんです。
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

意図的にメッセージ性を持たせているわけですね。

ただし、その意図については明らかにしておらず、観客に委ねています。

「明確に答えはこれだ」と言えるもの、答えは宮崎駿監督のみぞ知るもの、様々ですが、楽しんでいただければ幸いです。

放射能で汚染された世界が舞台

『On Your Mark』では荒れ果てた世界が描かれていますが、これは放射能で汚染された世界です。

これに関しては宮崎駿監督自身が明確に発言しています。

いわゆる世紀末の後の話。放射能があふれ、病気が蔓延した世界。実際、そういう時代が来るんじゃないかと、僕は思っていますが。そこで生きるとはどういうことかを考えながら作りました。
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

実は作中においても、「放射能」や「原発」を連想させる描写は多数存在します。

冒頭のシーンでは、ウクライナのチェルノブイリ原発を連想させる巨大な建造物がバックにそびえ立ちます。

周囲は荒廃した様子で、放射能で汚染されて人が住めなくなっていることが分かります。

脱出後の背景に描かれる景色も、アメリカの原子炉にそっくりです。

極めつけは作業車両に描かれているこちらのマークです。

こちらは原発を意味するマークとして知られており、宮崎駿監督も意図的に各所に散りばめています。

チャゲとアスカが少女を連れて地上に出る際には、「日光に注意」「生命の保障はしない」等の電光掲示板が中国語で並んでいました。

また、地上にも「EXTREAM DANGER（極めて危険）」の看板が掲げられています。

また、少女が空に飛び立つ際には荒れに荒れた都市がバックに映ります。

いかに地上が危険な状態なのかが分かりますね。

なお、この世界では看板等の言語が統一されていません。

中国語の看板が出てきたと思えば、居酒屋では日本語でメニューが書かれていたり、英語の看板も存在します。

放射能汚染は特定の国の問題ではなく、地球規模に広がっており、国の概念すらも壊れた世界なのかもしれません。

また、居酒屋には「塩サバ（合成）」「バイオ蛸酢」などの見慣れないメニューが並び、中には「本物　やきとり　時価」というような表記もあります。

ここから、人間以外の多くの生物は絶滅し、焼き鳥ですら超高級食材となっていることが読み取れるのです。

細かい描写から、いかに荒れた世界なのかが理解できるようになっています。

宮崎駿監督はこの設定を1995年に描いています。

チェルノブイリ原発事故（1986年）よりは後ではあるものの、福島第一原発の事故（2011年）の10年以上前の作品です。

まだ日本で原発批判の機運が高まる前の時代ですので、宮崎駿監督の着眼点には驚かされます。

翼の生えた天使の正体は？

『On Your Mark』で最大のカギを握るのは、やはり翼の生えた少女でしょう。

この少女の存在が何を意味しているのかを考えるヒントが、宮崎駿監督のインタビューの中にありました。

彼女が救世主だったり、救出を通して彼女と心の交流があったというわけではないんです。ただ、状況に全面降伏しないで、自分の希望、ここだけは誰にも触らせないぞというものを持ってるとしたら、それを手放さなければならないのなら、誰の手にも届かないところに放してしまおうという。そういうことですよ。
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

彼女の存在はチャゲとアスカにとって「希望の象徴」として描かれているのでしょう。

ではそもそも、彼女は一体何者なのでしょうか。

天使だとは言ってないし、鳥の人かもしれない。それはどうでもいいんです。
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

宮崎駿監督は少女への解釈も観客に委ねているのですね。

彼女の正体を、以下の観点で深堀して考えてみます。

少女は放射能の中でも平気で生活ができる
少女はなぜ放射能が平気なのか
チャゲとアスカは少女の存在を最初から知っていたのか

以下、詳細に考察します。

少女は放射能の中でも平気で生活ができる

「翼が生えている」ことが大きな特徴の少女ですが、もう1つ注目すべきポイントがあります。

少女は放射線が降り注ぐ地上でも、元気に空を飛び回ることができるのです。

これは彼女が、放射能に強い体を持っていることを意味します。

人間が地上で生きられない世界において、これはかなり貴重な存在です。

カルト教団からチャゲとアスカが救出した後、研究施設に連れていかれてしまったのも頷けます。

少女はなぜ放射能が平気なのか

ではそもそも、彼女はなぜ放射能に強いのでしょうか。

翼が生えていることを踏まえても、彼女は人間ではないことは明らかです。

その正体については、宮崎駿監督のインタビューにも、絵コンテの描写にも答えはありません。

あくまでも考察の域を出ませんが、以下のように考えるのが自然ではないでしょうか。

少女は放射能汚染後の地上で生まれた新生物である
少女はカルト教団によって作られた、放射能に強い人造人間である

少なくとも人類にとって極めて貴重な存在であることは間違いありません。

なお、研究施設の職員は防護服を着て少女を回収し、少女のことも袋の中に密閉してしまいました。

こういった描写から、少女自身も放射線を発している（と考えられている）可能性が想像できます。

チャゲとアスカは少女の存在を最初から知っていたのか

チャゲとアスカは少女のことをどこまで知っていたのでしょうか。

少なくとも、以下のように考えられます。

少女を発見した段階では、何も知らなかった
→少女を発見した不思議そうな表情と、抵抗もなく簡単に研究施設に引き渡してしまったことから推察できます
少女を研究施設から救出した段階では、すべてを把握していたはず
→「少女が放射能に強い」ということを知っていなければ、危険なはずの地上に逃がすのはありえません
　「捕らえられるくらいなら、地上で共に死のう」とチャゲとアスカが考えた可能性もゼロではありませんが・・

おそらくですが、ターニングポイントはこの瞬間です↓

仲間の研究職員に少女を引き渡したものの、その時の様子が気がかりだったのでしょう。（防護袋に覆われるなど、明らかに人間として扱われていない様子でした）

気になったチャゲとアスカは調査し、少女の正体を突き止めたのではないでしょうか。

そして、地上に解放することを決意したというわけです。

単純にこのパソコン操作は政府の機関へのハッキングで、研究施設の地図などを入手していると考える説も多いです。ただそうなると、彼らが少女の正体を知る瞬間が読み取れないため、当サイトはこの説を推します

なお、政府は少女の存在は最初から知っていたはずです。

そうでなければ、少女を発見した後にすぐに防護服を着た職員が駆けつけるというのは違和感があります。

ひょっとすると「聖NOVA’S CHURCH」への突撃も、少女を奪うことが真の目的だったのかもしれません（チャゲとアスカをはじめとする警官達には知らされていないでしょうが・・・）

場面が繰り返し「ループ」する意図

『On Your Mark』では、楽曲のサビの盛り上がりと合わせて話がループします。

セリフが無い中で話がループするので、観客をやや混乱させる演出なのですが、ここにはどのような意図があるのでしょうか。

単純に考えると、CHAGE and ASKAの歌詞「僕らがそれでも止めないのは夢の斜面見上げて行けそうな気がするから」を受け止めた演出のように思えます。

「On Your Mark」の歌詞は、挫折してもあきらめず、何度も前を向く二人の様子が歌われています。

一方で『On Your Mark』の絵コンテを確認すると、重要なキーワードが見つかりました。

それが「永劫回帰」です。

ループが始まる絵コンテの横に、「永劫回帰シーン」と明確にメモ書きが残されているのです。

永劫回帰とは？

19世紀の哲学者ニーチェの思想
宇宙は永遠に循環運動を繰り返すものである
世の中は同じ事象が永遠に繰り返す
人間は今の一瞬一瞬を大切に生きるべきである

宮崎駿監督がこの思想の影響を受け、意識して描いていることは間違いないでしょう。

しいていうなら、本来の永劫回帰とは「同じ事象が永遠に繰り返す」ことを意味します。

『On Your Mark』の永劫回帰は、事態が次第に好転していますので、ここは宮崎駿監督流の永劫回帰ということでしょう。

なお、宮崎駿監督は『On Your Mark』に関するインタビューの中で、ナウシカの名言を引用しながら以下のように語っています。

メチャメチャな時代にも、いいことや、ドキドキすることはちゃんとある。ナウシカの、「我々は血を吐きながら、繰り返し繰り返し、その朝を超えて飛ぶ鳥」なのです。
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

「困難の中にあっても、繰り返し前を向くことで事態は好転する」というのが宮崎駿監督の根本的な思想なのかもしれません。

そういう意味では、CHAGE and ASKAのOn Your Markの歌詞とも見事にマッチしていますね。

主人公二人（チャゲアス）のその後

危険な地上に飛び出してしまったチャゲとアスカはどうなってしまうのでしょうか。

残念ながら、放射能の影響で死亡すると考えるのが自然でしょう。

それだけの覚悟をもって、二人は少女を地上に送り出したのです。

少女を見送ったオープンカーは、最後は道をそれて停車します。

わざわざ道をそれて停車したところから、チャゲとアスカが車を制御できなくなった（死亡した）と理解できます。

この「死亡説」は『On Your Mark』を見た人の中では通説となりつつあります。

一方で、「宮崎駿が死亡説は否定している」という情報も目にしました。

過去の発言を洗い出してみましたが、おそらく以下の発言を根拠にしたものでしょう。

きっと彼らはまた警官の仕事に戻るんです。戻れるかどうか知らないけれど（笑）
出発点-宮崎駿-（徳間書店）より引用

肯定も否定もしていませんね。

「死亡説を否定した」と言い切るには根拠に乏しいです。

『On Your Mark』の参考資料は限られているので見落としはないと思いますが、明確に否定する情報があればお寄せいただけると幸いです。

『On Your Mark』は『風の谷のナウシカ』の前日譚？

『On Your Mark』は『風の谷のナウシカ』の前日譚であると語られることは多いです。

1994年3月にナウシカの原作漫画が完結し、その後の1995年1月に『On Your Mark』の制作に着手しています。

宮崎駿監督が明確に語った記録はありませんが、2つの作品に共通するものがあまりにも多いのです。

『風の谷のナウシカ』と『On Your Mark』の関連性

『風の谷のナウシカ』のオープニングのタペストリーに翼の生えた天使が描かれている
→ナウシカの世界には「天使」が言い伝えとして残っている
『風の谷のナウシカ』の世界では、1000年前に「火の7日間戦争」により産業文明が一度滅んでいると伝承されている
→荒れ果てた世界という背景は『On Your Mark』に通じるものがある
ナウシカをはじめ、『風の谷のナウシカ』の世界に生きる生物は、「火の7日間戦争」の際に作られた人造人間である
「火の7日間戦争」で世界は汚染されたが、人造人間はこの汚染された世界でも生きることができる
→『On Your Mark』では翼の生えた少女だけが放射能の中を生きられる
翼の生えた少女とナウシカの見た目が似ている

「火の7日間」が核戦争や原発事故のメタファーと考え、世界が放射能で汚染されたと考えてみるとどうでしょうか。

『On Your Mark』の世界と見事にリンクしませんか？

２つの作品の制作時期を踏まえても、無関係と結論付ける方が難しいでしょう。

『On Your Mark』は火の7日間戦争の少し前の真実の物語、と考えるとスムーズに結びつくのではないでしょうか。

※映画『風の谷のナウシカ』のオープニングのタペストリーです↓

全てのストーリーはチャゲとアスカの妄想？

ここまでの考察をすべて覆すことになってしまいますが、『On Your Mark』は夢オチという考察です。

実は主人公はJポップスターのCHAGE and ASKAであり、単に夢を見ているだけというストーリーです。

その根拠となるのが以下のシーンです。

作業中にチャゲのマグカップにははっきりと「CHAGE」と書かれています。

また、二人の作業机の周りにはプレゼントが散らばっていることも分かります。

この画像では少し分かりにくいですが、あからさまに花束が置かれており、ファンレターのようなものが挟まっている様子も見て取れます。

単純に宮崎駿監督の遊び心と考えることもできますが、現実のアーティストとしてのCHAGE and ASKAの意識が混ざりこんできたシーンと考えることもできます。

また、『On Your Mark』では「重機が突然空を飛ぶ」ように若干無茶な描写も目立ちます。

絵コンテを見ると「根性でとぶ！！」と書かれているのですが、これも宮崎駿監督らしくないです。

空を飛ぶことには定評のある宮崎駿監督ですが、だからこそ飛行シーンはかなりリアルに、根拠のある描写が特徴です。

CHAGE and ASKAの妄想と考えると、この無茶なシーンも説明がつくのです。

『On Your Mark』が制作された背景

スタジオジブリがアーティストの音楽映像を作るのは異例でした。

後にも先にも『On Your Mark』だけではないでしょうか。

スタジオジブリがこの仕事を引き受けた背景には、宮崎駿監督のスランプがあったのです。

その当時の様子を、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが明かしています。

（もののけ姫の）企画が決まり、宮さんは以前に書いたプロットを基にストーリーを作り始めました。
ところが、なかなか筆が進まない。最初に話を考えたのがずいぶん前だったから、その時の気分が自分の中に残ってなかったんですね。結果、「この話は今の時代には通用しないと思う」と言って、スランプに陥っちゃうんです。
（中略）

そんな矢先、歌手のCHAGE and ASKAの関係者から、「新曲『On Your Mark』のプロモーションフィルムを作ってくれませんか？」という話が入ってきました。僕（鈴木敏夫プロデューサー）はCHAGE and ASKAのことを知らなかったんですけど、ともかくそれに飛びついた。

これはスランプの宮さんにとって、いい気分転換になるーそう直感が働いたからです。
ジブリの教科書10　もののけ姫（文春ジブリ文庫）より引用

『もののけ姫』の制作に悩んでいたからこそ、気分転換に『On Your Mark』を引き受け、この名作が生まれたのです。

また、『On Your Mark』を制作したことで宮崎駿監督は『もののけ姫』の内容も大きく舵を切ることになります。

この出来事で『On Your Mark』と『もののけ姫』の2つの名作が生まれたと考えると、なかなか感慨深いですね。