当記事では、『崖の上のポニョ』の原作やモデルの地について解説します。
「そもそも原作は存在するのか?」
「宗介の町のモデルの地があるなら知りたい!」
こういった疑問を解決できる内容になっていますので、参考になれば嬉しいです。
以下の記事では『崖の上のポニョ』のストーリーを徹底解説しています。
なかなかボリュームの多い記事ですが、この記事でポニョの理解が深まれば嬉しいです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『崖の上のポニョ』の原作・原案と呼べる作品
『崖の上のポニョ』は宮崎駿監督のオリジナルストーリーです。
そのため、明確な原作は存在しません。
一方で、以下のような作品は『崖の上のポニョ』に影響を与えている原案であることが、宮崎駿監督のインタビュー等から読み解けます。
- アンデルセン『人魚姫』
- ワーグナー『ワルキューレ』
- 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
ここでは、この3作品と『崖の上のポニョ』の関連性を紹介します。
その他にも、もちろん様々な作品の影響を受けていると考えられます。
- 宗介は夏目漱石の『門』の主人公・崖の下の宗助がモデル
- フジモトは『海底二万マイル』のノーチラス号の生き残り
等のエピソードも有名ですね。
アンデルセン『人魚姫』
『崖の上のポニョ』はアンデルセンの『人魚姫』が原案となっています。
監督の企画意図に以下のように明記されており、『崖の上のポニョ』は日本版、宮崎駿版の『人魚姫』と言えます。
(ストーリーは全く異なるので、原作ではなくあくまでも原案と呼ぶのが適切でしょう)
アンデルセンの『人魚姫』を今日の日本に舞台を移し、キリスト教色を払拭して、幼い子供たちの愛と冒険を描く
ジブリの教科書『崖の上のポニョ』 監督企画意図より引用
『人魚姫』のあらすじはこちら
- 深海に住む美しい人魚姫は、15歳の誕生日に海面へと上がることを許される。
- 人魚姫は海面に上がり、海難事故で溺れかけている王子を救い、彼に恋をする。
- しかし、人間と人魚は交わることが許されていない。それでも彼女は王子に再会したいと願う。
- 人魚姫は魔女に頼んで人間になるための薬を貰う。その代償として声を失い、王子から愛されなかった場合は泡となって消えてしまうと忠告を受ける。
- 人間の女性となった人魚姫は、王子の城へと行く。
- 王子は人魚姫を気に入るが、声を失った彼女は自分が彼を救った女性であることを伝えられない。
- その後、王子は他の女性と結婚を決めてしまい、人魚姫は絶望する。
- 人魚姫の姉たちは人魚姫に探検を差し出し、人魚姫がそれで王子を殺せば人魚に戻れるという。
- しかし、人魚姫は王子を愛していたため彼を殺すことができず、海に身を投げる。
- 最後に、人魚姫は泡となって消え、空へと昇っていった。
アンデルセンの『人魚姫』は最後は人魚姫が消えてしまう、悲しいストーリーです。
王子と人魚姫の恋を描いたストーリーは『崖の上のポニョ』とは内容は異なりますが、様々な設定が『崖の上のポニョ』にも踏襲されています。
『ポニョ』に踏襲された主な設定
- 人魚(魚の子)が人間になって、人間の町にやってくる物語
- 人間に愛されなければ、泡となって消えてしまうという設定
人魚姫は王子に愛されず、泡となって消えてしまいました。
これに対してポニョは、宗介の純粋な愛情を持って、人間として生きることになりました。
「人魚姫と添い遂げる男を描く!」という宮崎駿監督の想いを感じられますね。
あの話は、最後に人魚姫は魂がないからといって、泡になってしまうでしょう。それが全然納得できなくて、いまだああいうキリスト教的な考え方は許せない気がしていたんです。(中略)
だから今回はそういう愛をハッピーエンドとして描いてみようと思いました。
ジブリの教科書『崖の上のポニョ』 より引用
ワーグナー『ワルキューレ』
ポニョの本名「ブリュンヒルデ」は、ワーグナーの『ワルキューレ』に由来しています。
オペラ『ワルキューレ』は、『ニーベルングの指環』の4部作の第2部にあたります。
宮崎駿監督がワーグナーをBGMに『崖の上のポニョ』を制作していたことは映画パンフレットでも明かされており、影響を受けていることは明らかと言えるでしょう。
『ワルキューレ』のあらすじはこちら
- 戦士であるジークムントは彼の追っ手から逃れるために、とある家に避難するところから物語が始まる。
- この家はジークムントの宿敵であるフンディングの家であり、翌朝の決闘を申し入れる。
- フンディングの妻ジークリンデがジークムントを介抱するうちに二人は互いに惹かれあい、二人は逃亡を決意する。
- 神々の父ヴォータンはワルキューレ(死神)である娘・ブリュンヒルデにジークムントの死を命じる
- だが、ブリュンヒルデはジークムントとジークリンデの愛情に感動し、ヴォータンの命令を無視して二人を救おうとする。
- ヴォータンはブリュンヒルデの反抗を許さず、ジークムントを自身の槍で倒す。
- ブリュンヒルデは妹たちの手を借り逃亡し、子どもを身ごもったジークリンデを逃がす。
- これによりブリュンヒルデはヴォータンから罰を受けることとなる。
- ブリュンヒルデから神性を奪い、無防備なまま眠らせ、人間の男たちに差し出すこととなる。
- ブリュンヒルデは真の英雄だけが自身に近づけるようにしてほしいと懇願する。
- ヴォータンはこの願いを聞き入れ、眠ったブリュンヒルデを燃え盛る岩山で囲うのであった。
※第3部『ジークフリート』にて、ブリュンヒルデはジークリンデの子・ジークフリートのキスで目を覚まします
『崖の上のポニョ』と『ワルキューレ』はストーリーそのものは全く別物ですが、共通点はいくつか発見できます。
『崖の上のポニョ』の設定やあらすじに影響を与えたと言っても問題ないでしょう。
『ポニョ』に影響?
- 父の言うことを聞かずに逃亡(家出)してしまう娘・ブリュンヒルデ(ポニョ)
- 父よりも姉・ブリュンヒルデに協力的な妹たち
- 娘に振り回されながら世界のために駆け回る父・ヴォータン(神)とフジモト(魔法使い)
ブリュンヒルデはワルキューレ(死神)であることから、ポニョの正体を死神と考える都市伝説も存在します。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
映画監督であり美術史博士でもある渡辺真也さんの『ポニョCODE』の考察からの紹介です。
宮崎駿監督が明言したわけではありませんが、『崖の上のポニョ』は『銀河鉄道の夜』の影響を受けているという考察です。
『崖の上のポニョ』では、まるで死後の世界のような不思議な空間が描かれています。
これが、『銀河鉄道の夜』で「溺死したカムパネルラの魂が死んでしまったお母さんとであった野原」と共通すると渡辺さんは考察しているのです。
当サイトとしても、この考察には大変共感しました。
『崖の上のポニョ』と『銀河鉄道の夜』の関連性を宮崎駿監督は語っていないものの、『銀河鉄道の夜』に対してのコメントは多数残しています。
特に、『千と千尋の神隠し』においては、はっきりと『銀河鉄道の夜』を意識しているコメントが残っているのです。
千尋が電車に乗るシーンに影のような人々が登場するが、監督の構想の中では、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に対するひとつの回答となるような、もうひとつのドラマがそこで用意されていたようだ。
ロマンアルバム 千と千尋の神隠し(徳間書店)より
『千と千尋の神隠し』の海原電鉄の場面は、『銀河鉄道の夜』のオマージュとなっています。
『千と千尋の神隠し』と『銀河鉄道の夜』の関連性については以下の記事をご覧ください。
『銀河鉄道の夜』にこだわりを持っている宮崎駿監督なので、死後の世界を描く際には意識している可能性は高いでしょう。
『崖の上のポニョ』のモデルの地は広島県・鞆の浦
『崖の上のポニョ』のモデルの地は広島県福山市鞆の浦です。
ジブリの公式サイト上でも、「大いに参考にした場所」として紹介されています。
社員旅行で鞆の浦を訪れた宮崎駿監督が、鞆の浦を気に入って長期滞在することになったのが『崖の上のポニョ』の始まりでした。
鞆の浦で海を見ながらいろいろとイメージを膨らませていたんでしょう。
「こんどの主人公は海からやって来る」ということがまず決まりました。
ジブリの教科書『崖の上のポニョ』より引用
※宮崎駿監督は2か月にわたり鞆の浦に滞在しますが、その様子はドキュメンタリー番組でも紹介されました。
あくまでも参考にした場所であり、宗介の町と鞆の浦が全く同じというわけではありません。
ここからは、作品に影響を与えていると考察できる、以下の2点を紹介します。
- 生命の水のモデル?「保命酒」
- グランマンマーレに影響?「おっぱい観音」
生命の水のモデル?「保命酒」
鞆の浦は、保命酒の名産地としても有名です。
1659年から製造されており、ペリーや坂本龍馬、高杉晋作らも飲んだと言われる歴史ある薬味酒です。
現在は鞆の浦だけで製造されており、その名のとおり疲労回復や健康に効果があると言われています。
『崖の上のポニョ』の物語の中では、フジモトが「生命の水」を製造していました。
もしかすると、この生命の水のモデルは保命酒だったのかもしれません。
グランマンマーレに影響?「おっぱい観音」
鞆の浦には国の重要文化財に指定された観音堂が存在します。
崖の上に位置する「阿伏兎観音堂」です。
航海安全・子育て・安産の観音様であり、胸の形をした「おっぱい絵馬」が奉納されています。
「おっぱい絵馬」の影響で、「おっぱい観音」としても有名です。
宮崎駿監督も「おっぱい観音」を見ている可能性は極めて高いでしょう。
グランマンマーレは物語の中でも「観音様」と呼ばれるシーンが存在します。
「おっぱい観音」は少なからずグランマンマーレに影響を与えていると言えるのではないでしょうか。
『崖の上のポニョ』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『崖の上のポニョ』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書15 崖の上のポニョ(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 崖の上のポニョ(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 崖の上のポニョ(徳間書店)
- THE ART OF Ponyo on the Cliff(徳間書店)
- 続・風の帰る場所(ロッキング・オン)
- ジブリの教科書15 崖の上のポニョ(文春ジブリ文庫)
-
過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 崖の上のポニョ(徳間書店)
-
インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
¥1,362 (2023/04/28 15:06時点 | Amazon調べ)ポチップ - スタジオジブリ絵コンテ全集 崖の上のポニョ(徳間書店)
-
『崖の上のポニョ』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ - THE ART OF Ponyo on the Cliff(徳間書店)
-
イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
著:スタジオジブリ¥3,038 (2023/04/28 15:07時点 | Amazon調べ)ポチップ - 続・風の帰る場所(ロッキング・オン)
-
ここでしか語られない、独自インタビューが掲載されています。
ポニョについても70ページ近くのボリュームで語られており、参考になります。
ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。