当記事では、宮崎駿監督作品『崖の上のポニョ』で噂される都市伝説について解説します。
「ポニョは死神」「宗介の町は沈んで、みんな亡くなっている」等の都市伝説を耳にしたことはありますでしょうか。
宮崎駿監督自身も否定はしておらず、むしろ「死後の世界」を意識した発言もしばしば見られます。
当記事では、宮崎駿監督の過去のインタビュー内容などをもとに、都市伝説の真偽について考察します。
以下の記事では『崖の上のポニョ』のストーリーを徹底解説しています。
なかなかボリュームの多い記事ですが、この記事でポニョの理解が深まれば嬉しいです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
『崖の上のポニョ』で噂される都市伝説とは?
『崖の上のポニョ』で噂される都市伝説の内容は主に以下のようなものです。
- 物語中盤の津波で、登場人物のほとんどが亡くなっている
- 物語後半に描かれた水没した世界や、水中世界は死後の世界である
- ポニョの正体は死神であり、町の人々をあの世へ送っている
『崖の上のポニョ』といえば、子どもでも楽しめる明るい物語です。
このようなエピソードが噂されることに驚く方も多いのではないでしょうか。
ただ、そこにはそれなりに論理的な根拠があるのも事実です。
以下、この怖い都市伝説が噂される理由と、それを否定する根拠の両面で解説します。
(参考)『となりのトトロ』の都市伝説
トトロにおいても「メイは亡くなっている」「トトロは死神」等の都市伝説は有名です。
ただし、『となりのトトロ』の都市伝説についてはジブリ公式に否定済です(そういう意味では、ポニョは公式には都市伝説は否定されてはいません)
『崖の上のポニョ』の怖い都市伝説が噂される理由
まずは『崖の上のポニョ』の怖い都市伝説が噂される理由について、以下の観点で解説します。
(記事の後半では、この考察を否定する視点も紹介します)
- まるで天国のような水中世界
- 作中で描かれた意味深なセリフ
- ポニョの本名「ブリュンヒルデ」に隠された意味
- 象徴的に描かれる「月」に込められた意味
- 鈴木敏夫や久石譲の発言
それぞれ公式書籍や関係者のインタビューに基づく内容です。
順番にご覧ください。
まるで天国のような水中世界
物語の終盤で描かれた水中世界を見て、直感的に「天国のようだ」と感じた方は多いのではないでしょうか。
- 水中で呼吸ができている不思議な状況
- 水中にもかかわらず異常に明るく色鮮やかな世界
- 車いす生活だったはずのおばあちゃん達が元気に走り回っている
また、宗介の町は津波に襲われたはずですが、水中に沈んだ町は美しく描かれています。
津波に襲われた町を正しく描くならば、建物は倒壊し、荒れ果てているはずなのです。
住民も怪我をしている様子すらなく、みな無事であるように見えます。
「宮崎駿監督がわざわざ沈んだ町を美しく描いたということは、これはもはや宗介の町ではなく、あの世なのだ」と考えることができます。
作中で描かれた意味深な場面
『崖の上のポニョ』には、作中でその意図が回収されていない意味深な場面が存在します。
こうしたセリフや場面を「実はあの世説に繋がっているのでは」と結びつけている方もいるのです。
- 宗介の母・リサの意味深なセリフ
-
リサ「不思議なことがいっぱい起こってるけど、いまはなぜなのかは判らない。でも、その内にわかるでしょう。今はひまわり園の人たちが心配なの」
これはリサがひまわり園に向かう際、宗介を説得するセリフの一部です。
このセリフを受けて、以下のような考察が生まれ、拡散されました。
- 不思議なことが起きているのは、この世界が「あの世」だから
- 宗介は幼いのでまだ亡くなったことに気付いていない
- 宗介もいつか気が付くはずなので、「そのうちにわかる」と発言した
正直飛躍しすぎな印象ですが、このような説を紹介しているサイトが多いのは事実です。
個人的には天気が回復したり、テレビやラジオが回復することを「そのうち」と表現しているだけだと思っています(笑)
- 小金井丸の船員の意味深なセリフ
-
船員「船の墓場ですよ、きっと・・・。あの世の入口が開いたんだ」
耕一「か、観音様か・・・!」
グランマンマーレの登場シーンにおける、宗介の父・耕一やその船員のセリフです。
ここでは明確に「あの世」というキーワードが使われました。
この場面から、『崖の上のポニョ』は「あの世の話」であることを仄めかしていると考察するわけです。
- 古風な夫婦との意味深な出会い
-
宗介とポニョは船旅の道中、赤ちゃんを連れた夫婦と出会います。
実はこの夫婦、映画パンフレットにおいて「大正時代のお母さん」と紹介されているのです。
この婦人の声優を担当した柊瑠美さんのコメントです。
監督から大正時代の落ち着いたお母さんだけど、生活感がない感じで良いと言われ、安心して演じることができました。
『崖の上のポニョ』映画パンフレットより引用こういった情報と、あの意味深な場面から、以下のような噂が生まれました。
- ポニョと宗介は三途の川に迷い込んでいる
- 三途の川なので、大正時代に亡くなって成仏できていない家族と出会った
- ポニョは赤ちゃんとふれあい、この家族が成仏する手助けをした
「大正時代」は演技指導の一環でのたとえ話だったのでは?
婦人は宗介に「宗ちゃん」と呼びかけており、以前から知っているようだが?等のツッコミどころも多い噂ではあるのですが、考察としては面白いですね。
この場面については以下の記事でさらに踏み込んで考察していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
ポニョの本名「ブリュンヒルデ」に隠された意味
ポニョの本名「ブリュンヒルデ」も、この都市伝説の信憑性を増す要素として語られます。
「ブリュンヒルデ」はワーグナーの楽劇『ワルキューレ』に由来しており、ワルキューレに登場する9人の娘たちの1人の名前なのです。
宮崎駿監督は『崖の上のポニョ』の構想を練っている際、ワルキューレをBGMとして頻繁に聞いていたそうです
『ワルキューレ』のブリュンヒルデは、戦死した者を神殿に連れていく役割を担っています。
わざわざ宮崎駿監督がこのブリュンヒルデを選んだということは、ポニョも死者を連れて行く役割(=死神)なのだと考えらえたわけですね。
象徴的に描かれる「月」に込められた意味
『崖の上のポニョ』では、「月」がかなり印象的に描かれています。
地球に大接近している月の様子に、不気味な気配を感じた方も多いでしょう。
この「月」に込められた3つの意味について、映画パンフレットの中ではっきりと記載されています。
パンフレットの内容の要約
- 世界のバランスが崩れたために月が接近し、地球が崩壊の危機に襲われた
- 女性の象徴であり、グランマンマーレもいつも月光に照らされている
- 人間の精神も左右し、人間の生死にも影響する
ここではっきりと「生死」というキーワードも登場するのです。
映画のパンフレットに「生死」という単語が登場したことで、「やはりこの映画は生死を扱った物語なのだ」と解釈する人が増えたわけですね。
鈴木敏夫や久石譲の発言
プロデューサーの鈴木敏夫さんや、作曲家の久石譲さんも、『崖の上のポニョ』に対して意味深なコメントを残しています。
以下は、ジブリの教科書に掲載された鈴木敏夫プロデューサーのインタビュー内容の抜粋です。
デイケアセンターのおばあちゃんたちが、あの世みたいなところへ行くでしょう。当初の絵コンテでは、そのシーンが延々描かれていたんです。
(中略)
自分が「あの世」を見たいから描いたんでしょうけど、映画のバランスを考えるとさすがに長すぎた。
ジブリの教科書『崖の上のポニョ』より引用
この背景として、宮崎駿監督から「死」を意識した発言がその当時目立っていたそうです。
『崖の上のポニョ』制作時の宮崎駿監督が66歳であり、「どうやって死を迎えるか」について考えていたのだろうとインタビューの中では推測されています。
また、数々のジブリ作品の音楽を担当している久石譲さんも、『崖の上のポニョ』に関するインタビューで以下のようなコメントを残しています。
死後の世界、輪廻、魂の不滅など哲学的なテーマを投げかけている。でも、子供の目からは、冒険物語の一部として、自然に受け入れられる。この二重構造をどう音楽で表現するか。
読売新聞(2008年7月31日)より引用
『崖の上のポニョ』の音楽を制作するにあたって、当然宮崎駿監督は久石譲さんに作品の意図を伝えているでしょう。
その久石譲さんから「死後の世界」というコメントが出たため、都市伝説の信憑性が一気に上がったわけです。
怖い都市伝説を否定できる根拠
ここまで読んでいただいた方は「都市伝説が真実なのでは・・?」と感じた方もいるのではないでしょうか。
それくらい『崖の上のポニョ』には「死の香り」が漂っていますし、関係者も「死」に関するコメントを残しています。
それでも、「宗介やリサはみんな死んでしまっていたんだ!」と、それがまるで真実のように語るのは浅はかです。
ここからは、この都市伝説を否定できる根拠を紹介します。
水中世界は魔法によって守られた世界
『崖の上のポニョ』は魔法が存在する物語だということを忘れてはいけません。
あまりにも不思議で幻想的な水中世界ですが、「死後の世界」と考える前に「魔法の力」で説明できてしまうのです。
『THE ART OF Ponyo on the Cliff』にて、美術監督の吉田昇さんは「海」について以下のような裏話を明かしています。
吉田昇さんのコメント抜粋
- ポニョと宗介が船で冒険した海について「ポニョの魔法に覆われた世界なので、子どもにとっても身近な入浴剤のような色にしている」と明かした。
- リサの車が発見された周辺は「グランマンマーレの魔法が効いている海」と明かした。(全体的に少し濃い色合いになっている)
つまり、終盤の海は魔法の力に満ちた海なのです。
ポニョが舐めただけで宗介の指の傷が治るのですから、グランマンマーレならおばあちゃんの足を治したり、町を復活させることなど簡単なことなのでしょう。
実際に宮崎駿監督も以下のようにインタビューで語っています。
水が引いた後あとめちゃくちゃになってると困るじゃないですか。ポニョがこれから生きていくところが。
だからお母さんが一生懸命魔法をかけて、ドアを開けてみたらバカは乾いていたみたいな世界にしようと、壊れてない街を描いたんですけど。そう思ってくれない人が多くて困ってるんですよ(笑)
続・風の帰る場所より引用
宮崎駿監督の口から「ポニョがこれから生きていくところ」とはっきりと発言されましたね。
「そう思ってくれない人」というのは「死後の世界と解釈した人」を指しているのかもしれません。
宮崎駿監督の発言をそのまま受け取ると、あくまでもポニョが生きていくためのグランマンマーレの魔法の力なのです。
宮崎駿「悲劇を作る理由がない」
『崖の上のポニョ』は制作スタッフの子どもがモデルになっているなど、宮崎駿監督が子どもを意識して作られた作品です。
実際にスタジオジブリは『崖の上のポニョ』の製作中にスタジオに併設する保育園も建てています。
子どもの様子を見ながら映画を作った宮崎駿監督は「子ども達に向けて悲劇を作る理由はない」と語っています。
今、悲劇を作る理由が自分たちにないと思って。
だって目の前にいるチビたちを見てね、これを祝福せざるをえないじゃないかっていう。
続・風の帰る場所より引用
『崖の上のポニョ』は悲劇ではなく祝福のストーリーなのです。
そう考えると「死後の世界」というよりも、純粋にまっすぐな宗介とポニョの愛の物語と考えるのが自然かもしれません。
宮崎駿「生と死っていう言葉を使いたくない」
『続・風の帰る場所』に掲載されたインタビューでは、宮崎駿監督自身がはっきりと「生死」について語っています。
死は匂うけど、そういうものの中に同時に自分たちが描きたいキラキラしたものもあるから。あんまり生と死っていう言葉を使いたくないですよね
続・風の帰る場所より引用
『崖の上のポニョ』は「死後の世界」と語るのが都市伝説ですが、宮崎駿監督に言わせれば「生と死」はそんなに簡単に切り離せるものではないということなのでしょう。
「死は匂うけど」と言っているとおり、少なくとも死を意識しているはずです。
だからといって、宗介たちが亡くなっているという単純な話でもないのです。
【まとめ】『崖の上のポニョ』の都市伝説は本当なのか?
ここまでご覧いただきありがとうございました。
『崖の上のポニョ』は死後の世界説、真実だと感じたでしょうか。
宮崎駿監督が「死」を意識してこの物語を作ったことはおそらく事実でしょう。
とはいえ、「死後の世界」=「真実」という単純な結論ではないのかもしれません。
宗介たちは「死」の感覚に触れたのかもしれませんが、それはあくまでも魔法の力であり、これからも生きていくのではないでしょうか。
当記事を参考にしていただき、ぜひあなたなりの考察を深めていただければ嬉しいです。
『崖の上のポニョ』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『崖の上のポニョ』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書15 崖の上のポニョ(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 崖の上のポニョ(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 崖の上のポニョ(徳間書店)
- THE ART OF Ponyo on the Cliff(徳間書店)
- 続・風の帰る場所(ロッキング・オン)
- ジブリの教科書15 崖の上のポニョ(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 崖の上のポニョ(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- スタジオジブリ絵コンテ全集 崖の上のポニョ(徳間書店)
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『崖の上のポニョ』の制作に使用された絵コンテです。
ポチップ - THE ART OF Ponyo on the Cliff(徳間書店)
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
著:スタジオジブリ¥3,038 (2023/04/28 15:07時点 | Amazon調べ)ポチップ - 続・風の帰る場所(ロッキング・オン)
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ここでしか語られない、独自インタビューが掲載されています。
ポニョについても70ページ近くのボリュームで語られており、参考になります。
ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。