映画『もののけ姫』には主人公のアシタカとヒロインのサンが「やっている」という都市伝説が存在します。
つまり、男女として肉体関係にあるという説です。
メッセージ性の強い『もののけ姫』にしては、やや下世話な都市伝説ですよね。
当記事ではこの都市伝説について、根拠を探りながら検証します。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は映画「もののけ姫」を一度は見ている方向けに執筆しています。
結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
都市伝説「アシタカとサンはやっている」の内容
「アシタカとサンはやっている」という内容は、しばしばネットで語られる都市伝説です。
スタジオジブリや宮崎駿監督が公式に語っているわけではありませんが、以下のように語られることが多いです。
- 傷ついたアシタカはサンの洞窟で一夜を過ごした
- アシタカが目を覚ました際、サンはやけに安心した様子で眠っている
- サンは無防備に足を出している
- この様子から、アシタカとサンは洞窟で性的な関係を持ち、距離を縮めたと考えられる
正直この説を始めて知ったとき、筆者自身は違和感を感じました。
サンの態度が変わったのは洞窟で一夜を過ごした後ではなく、アシタカの「生きろ。そなたは美しい」のセリフの後からです。(山犬でも人間でもないサンは、「美しい」の言葉に動揺し、アシタカに次第に心を許し始めます)
サンが無防備で安心している様子なのは確かにその通りですが、それが「やっている」と結びつけるには根拠が弱いのです。
そこで以下では、この都市伝説の発信源や根拠を探ってみます。
「アシタカとサンはやっている」を広めた発信源
「アシタカとサンはやっている」という説については、SNSや様々なサイトでも言及されています。
その大元をたどってみると、映画評論家の岡田斗司夫さんの説であることが分かりました。
岡田さんによると、映画プロデューサーの鈴木敏夫さんが以下のように語っていたというのです。
- サンの無防備な寝顔と脚を見せているコンテを見てピンと来た鈴木敏夫は、「この時点で、2人はセックスしてますよね?」と宮崎駿監督に聞いた
- 鈴木敏夫が問い詰めた結果、宮崎さんは「そんなの、わざわざ描かなくてもわかりきってるじゃないですか!」と言った
鈴木敏夫さんが語っていたなら、かなり信憑性のある情報です。
岡田さんによると「鈴木敏夫がラジオで嬉しそうに語っていた」ということでした。
根拠はラジオ「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」か?
都市伝説を広めたのは岡田斗司夫さんで、その根拠は「ラジオでの鈴木敏夫の発言」ということです。
そうなると、今度は「本当にラジオでそんな発言があったのか?」という点が気になりますよね。
岡田さんを疑うわけでは無いのですが、岡田さんの発言以外にラジオの詳細が見つからなかったため、当記事ではさらに調査してみました。
鈴木敏夫さんのラジオといえば、おそらく「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
外部リンク:鈴木敏夫のジブリ汗まみれ
鈴木敏夫がゲストを迎えて、主に対談形式で進むラジオで、ジブリ作品の裏話が披露されることも多いラジオです。
過去のバックナンバーも聞けるので、岡田さんの語る内容を探してみました。
岡田氏の語る明確な内容は見つからず
「そんなの、わざわざ描かなくてもわかりきってるじゃないですか!」と宮崎駿監督が発言したというエピソードが一番欲しかったのですが、これについては見つかりませんでした。
「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」を聞き込み、文字起こしサイトでも検索しましたがヒットしません。
一方で、「サンとアシタカの肉体関係」について議論する回は見つかりましたので、以下ではその内容を紹介します。
関係者が「サンとアシタカの肉体関係」に触れる回はあり
2013年7月18日の放送回で、興味深い議論が見つかりました。
イギリスの劇団による舞台『もののけ姫』について、関係者が語り合う放送内容です。
※以下のリンクから実際の音声を聞くことができます。
外部リンク:イギリスの新進気鋭劇団「ホール・ホグ・シアター」による舞台「もののけ姫」について語り合います | 鈴木敏夫のジブリ汗まみれ
対談メンバーは以下のとおりです。
- 鈴木敏夫
- 三宅由利子(舞台キャストで唯一の日本人で、ヒイ様役)
- 石井朋彦(ジブリ出身の映画プロデューサー、プロダクションI.Gの代表)
- 奥田誠治(日本テレビ、ジブリ担当)
このメンバーが舞台『もののけ姫』の感想を語り合う中で、以下のようなやりとりがありました。
石井「(編注:舞台『もののけ姫』について)これは宮崎駿監督作品ではないぞと思ったことを言っても良いですか?」
奥田「あ、だいたい分かった」
石井「あ、さきどうぞ」
奥田「鈴木さんがずっと言ってたんだけども、二人が親しくなっていくところが、ちょっとこうバレエっぽい感じのすごく官能的で、あの辺はヨーロッパの人がつくるとこういう風になるなと思いました」
石井「まずカヤとの別れで明らかに二人の間に肉体的接触があるじゃないですか。次にアシタカが傷ついて寝てる間のイメージだけど、サンとアシタカが明らかにあれは肉体関係を結ぶじゃないですか。宮崎駿監督という人は一切の肉体的接触なしに「生きろ。お前は美しい」と一言言わせるだけで、あらゆる肉体関係を超えたですね、崇高な表現をしてしまう人類史上唯一の人なんですよ。日本人がなぜ宮崎さんが好きかというと、まったく目の前で健康的な男の子と女の子の出会いが繰り広げられているにもかかわらず、パズーとシータがね、「僕パズー!」て手を握るだけで、もうその二人が結婚して、こども7人くらいできて、おばあちゃんになってシータが死ぬまでを、まるで見てきたのように感じさせてしまうところが宮崎駿監督のすごいところなんですけど、そこだけは、やっぱりこれはあえて冗談で言いますけど、西洋の方はですね。恋愛というのは男と女がくっつくことなんだな。と」
鈴木敏夫のジブリ汗まみれから引用(まつぼくらぶにて文字起こしの上、注記を追加)
舞台『もののけ姫』はイギリスの劇団によって作られたものですが、その中ではアシタカとサンには明確に肉体関係が表現されています。
ただ、これについてジブリを良く知る石井さん、奥田さんが「宮崎駿監督作品らしくない」と語っているのです。
石井さんの発言を整理してみましょう。
- アシタカとサンの肉体関係をはっきり描くのは宮崎駿監督作品らしくない
- 宮崎駿監督は、肉体関係をはっきり描かなくともそれを超えた関係を表現している
- 肉体関係を描かなくても、結婚、子作り等を表現することができる
ざっくりとこういったところでしょうか。
ポイントは「肉体関係は無い」と言っているわけではない点です。
宮崎駿監督はわざわざ肉体関係を描かなくても、それと同等の感情の動きや関係性を表現しているということでしょう。
そういった意味では、まさに「そんなの、わざわざ描かなくてもわかりきってるじゃないですか!」ということなのかもしれません。
この放送回で語られている内容と、岡田さんの考察の内容は方向性は同じです。
ひょっとすると岡田さんは、この放送回の内容を解釈して、エンターテイメントとして誇張して発信したのかもしれません。
都市伝説「アシタカとサンがやっている」説は本当か?
舞台『もののけ姫』はジブリ関係者から絶賛されました(先ほどのラジオを実際に聞いていただくと分かると思います)
アシタカとサンの肉体関係をはっきりと描いた点については「宮崎駿監督作品らしくない」との意見があったものの、その解釈自体は否定されていません。
舞台『もののけ姫』の感想も、肉体関係はある前提で「それをどう表現するか」にスコープが当たっていました。
- イギリス人(舞台『もののけ姫』)は男女の仲をはっきりした肉体関係で描く
- 宮崎駿監督は男女の仲を肉体的接触なしに描く
というわけですね。
こういった議論を踏まえても、「アシタカとサンがやっている」というのは事実でしょう。
アシタカとサンが心から深く繋がり、信頼しあった男女であることを踏まえると「肉体関係はない」と考える方が不自然です。
当然肉体関係を結ぶ関係ではあるものの、それをわざわざ描かない、というのが宮崎駿監督のスタンスなのでしょう。
まさに「そんなの、わざわざ描かなくてもわかりきってるじゃないですか!」ということですね(この発言が実際にあったのか、岡田斗司夫さんの誇張なのかは怪しいですが・・)
『もののけ姫』には深いメッセージが込められています。
このような都市伝説で盛り上がるのは宮崎駿監督の本意ではないかもしれませんが、あらためて『もののけ姫』を見るきっかけになれば良いのかもしれませんね。
以下の記事では、アシタカやサンのキャラクターについて深堀しています。
ぜひ、こちらの記事も合わせてご覧ください。
『もののけ姫』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『もののけ姫』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
- ジブリの教科書10 もののけ姫(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
- ロマンアルバム もののけ姫(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- 絵本 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の原作とされています。
※内容は映画と異なり、初期構想のイメージボードです。 - スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫(徳間書店)
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『もののけ姫』の制作に使用された絵コンテです。
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。