『魔女の宅急便』の印象的なシーンとして、「ニシンのパイが嫌いな女の子」の場面をあげる方は多いのではないでしょうか。
一生懸命にパイを届けたキキに対して、「あたし、このパイ嫌いなのよね」と言い捨てるショッキングな場面です。
実はこの場面には宮崎駿監督のこだわりが込められています。
過去のインタビュー内容等をもとに解説しますので、参考になれば嬉しいです。
以下の記事では『魔女の宅急便』のストーリーを徹底解説しています。
なかなかボリュームの多い記事ですが、この記事で『魔女の宅急便』の理解が深まれば嬉しいです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は結末等のネタバレを含みますのでご注意ください。
「ニシンのパイが嫌いな女の子」とは?
ショッキングなシーンとして有名な「ニシンのパイが嫌いな女の子」の場面の流れは以下のとおりです。
- キキはおばあさんからニシンのパイ(ニシンとカボチャの包み焼き)の宅配を依頼される
- おばあさん宅のオーブンが不調だったため、キキとおばあさんは古い薪のオーブンでパイを焼き上げる
- なんとかパイを焼き上げたキキは、大雨の中パイを届けるためおばあさんの孫の元に向かう
- 到着したキキは孫の女の子と対面するも、パーティー中だった女の子はキキに冷ややかな態度を取る
- パイを受け取った女の子は「あたし、このパイ嫌いなのよね」と言い捨て扉を閉めてしまう
孫のために一生懸命にパイを焼いたおばあさんの気持ちが踏みにじられたように感じた方は多いでしょう。
おばあさんを手伝い大雨の中パイを届けたキキには、感謝も労いの言葉もありませんでした。
なかなかにショッキングなシーンです。
「ニシンのパイが嫌いな女の子」の意味を解説
この場面は多くの方にとってショッキングだったようで、「この場面が辛くて魔女宅が見られない」という声がSNSでは見られるくらいです。
ただ実はこの場面は宮崎駿監督のこだわりのシーンであり、そしてお気に入りのシーンでもあるのです。
ここからは、「ニシンのパイが嫌いな女の子」の場面に込められた意味を解説します。
宮崎駿監督が語った「仕事観」
宮崎駿監督はインタビューの中で、このシーンについて以下のように語っています。
宅急便の仕事をするというのは、ああいう目にあうことなんですから。
特にひどい目にあったわけじゃあなくてね、ああいうことを経験するのが仕事なんです。
ジブリの教科書 魔女の宅急便 より引用
宮崎駿監督に言わせれば、これはショッキングな場面ではなく、「仕事とはこういうものだ」というのです。
どうしても我々観客は主人公・キキに感情移入してしまいますが、あの場面においてはキキはひとりの宅配業者にすぎないのです。
キキはあそこで自分の甘さを思い知らされたんです。
当然、感謝してくれるだろうと思い込んでいたのが……。違うんですよ。お金をもらったから運ばなきゃいけないんです。
もし、そこでいい人に出会えたなら、それは幸せなことだと思わなくちゃ……。
ジブリの教科書 魔女の宅急便 より引用
こうしたショッキングな出来事も、仕事なら乗り切っていかなくてはいけない。そんな宮崎駿監督のメッセージが込められています。
実際にキキはショックを受けて寝込んでしまうわけですが、しっかりと立ち直って前を向いていました。
女の子の態度はごくごく自然なもの
あまりにも冷たく見えてしまう女の子の態度ですが、宮崎駿監督はあの態度を「気に入っている」と語っています。
僕はあのパーティーの女の子が出てきた時のしゃべり方が気に入ってますけどね。
あれは嘘をついていない、正直な言い方ですよ。
本当にいやなんですよ、要らないっていうのに、またおばあちゃんが料理を送ってきて、みたいな。
ジブリの教科書 魔女の宅急便 より引用
たしかに女の子の立場に立ってみると、あの態度はごく自然なものかもしれません。
女の子の目線であの場面を振り返ってみましょう。
孫の女の子目線で例の場面を振り返ると・・
- 友人とパーティーを楽しんでいる最中だった
- 客人が来たと思って扉を開けたら、びしょ濡れの宅配業者が立っていた
- 届けられたものはいつもいらないと言っている、好きではないパイだった
パーティーを楽しんでいる最中に、頼んでもいない料理が届いたらイラっとしてしまう気持ちも理解できます。
しかもその料理を届けた宅急便はびしょ濡れで、みっともない様子です。
友人でもなければ知り合いですらない宅配業者に、必要以上に愛想よくする理由はないでしょう。
わざわざ「嫌いなのよね」と言い捨てるのは余計な一言ですし、冷たい態度ですが、こういった客もいるでしょう。
宮崎駿監督は以下のようにも語っています。
僕らだって宅急便のおじさんが来た時に「大変ですねえ、まあ上がってお茶でもどうぞ」なんて、いちいち言わないじゃないですか(笑)
ハンコをわたして、どうもご苦労さん、それで終わりでしょ。
ジブリの教科書 魔女の宅急便 より引用
振り返ってみると、実はキキが鳥かご(と黒猫の人形)を届けた最初のお客さんも、「リアル」に描かれています。
男の子はキキと目を合わせることすらありませんし、婦人も感謝の言葉や労いの言葉もありません。
当然、家に招き入れることなどなく、淡々とサインに応じています。
「ニシンのパイが嫌いな女の子」は冷たい態度が目立ってしまいましたが、実はその他の客も自然体で描かれているのです。
キキのお客さんの態度はごくごく自然なものであり、アニメだからといって過剰に温かく描かれているわけではありません。
これこそが宮崎駿監督がこだわっている「嘘のない」表現なのでしょう。
『魔女の宅急便』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『魔女の宅急便』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- ジブリの教科書5 魔女の宅急便(文春ジブリ文庫)
- ロマンアルバム 魔女の宅急便(徳間書店)
- スタジオジブリ絵コンテ全集 魔女の宅急便(徳間書店)
- ジ・アート・オブ 魔女の宅急便(徳間書店)
- ジブリの教科書5 魔女の宅急便(文春ジブリ文庫)
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過去のインタビュー内容等を参考、引用しています。
ポチップ - ロマンアルバム 魔女の宅急便(徳間書店)
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インタビューや設定情報が記載された公式のムック本です。
- スタジオジブリ絵コンテ全集 魔女の宅急便(徳間書店)
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『魔女の宅急便』の制作に使用された絵コンテです。
- ジ・アート・オブ 魔女の宅急便(徳間書店)
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
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なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。