スタジオジブリ初の3DCG劇場作品である『アーヤと魔女』は、つまらない・ひどいと酷評されている場面をよく目にします。
宮崎吾朗監督のチャレンジングな作品ではあるのですが、確かにイマイチに感じてしまう気持ちも分かります。
当記事では、『アーヤと魔女』が酷評される理由について整理してみます。
当記事はネタバレを含みます。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
『アーヤと魔女』がつまらない・ひどいと酷評される理由
『アーヤと魔女』が酷評される大きな理由は、一般的なジブリのイメージとずれていたからではないでしょうか。
一般的にジブリに期待されるのは以下のような点ですよね。
- 美しい手描きによる作画・美術
- 社会的なメッセージも感じられる壮大な世界観
- 深みを感じられる魅力的なキャラクター
これに対して、『アーヤと魔女』は以下のような内容となっています。
- 完全3DCG作品
- 自宅の中で完結する小さなストーリー
- 主人公のアーヤが共感しづらい
ジブリのイメージとは真逆の特徴です。
『アーヤと魔女』がこれだけで悪いというつもりはありませんが、少なくとも多くの方の期待を裏切る形となってしまっているのでしょう。
以下、『アーヤと魔女』の特徴について深堀りします。
3DCGのクオリティが低い
スタジオジブリといえば手書きアニメーションです。
『アーヤと魔女』はスタジオジブリ初の劇場版3DCG作品で注目していましたが、正直そのクオリティはイマイチでした。
初の3DCG作品なので仕方ない部分ではあるのですが、やはりスタジオジブリには「アッ」と驚くクオリティを期待していました。
「ひどい」と言うほどではないのですが、劇場版作品としてはイマイチで、よくある3DCG作品といった印象です。
少なくともピクサーやイルミネーション等の長年3DCG作品を作っている企業には、とてもかなわないクオリティで、ガッカリした方も多いでしょう。
エンディングで流れた手書きのアニメーションは「ジブリらしい」魅力的な絵だっただけに、手描きで見てみたかったですね・・・
自宅の中だけで完結するストーリー
スタジオジブリといえば、数多くの壮大なストーリーを生み出してきました。
これに対して『アーヤと魔女』は、ほぼ自宅の中で完結する小さなストーリーです。
物語の序盤では「12人の魔女」が語られたり、遠くに浮かぶ船が描かれたりと壮大なストーリーを予感させる描写もあったため、期待外れに感じた方もいたのではないでしょうか。
回収されない伏線‥途中で終わった?
多くの方が感じたであろう違和感…それが「途中で終わった!?」と思わせるような中途半端な結末です。
上映時間も83分と短めなので、物足りなさを感じます。
起承転結で言うと「起承」いや「起」だけを見せられたような感覚です。(連続ドラマで言うと最初の2話分くらいを見た感覚でしょうか…)
アーヤがベラやマンドレイクと打ち解け魔女の修行をはじめ、「ここから盛り上がりそう…!」というところで終わってしまうのです。
最後まで回収されなかった伏線も多く、物足りなさから「ひどい」という感想が出るのも仕方ないと感じました。
- 仲間の12人の魔女に追われている
- 田舎の孤児院から遠くの海に見える船(遠くに旅立つ予感‥?)
- 「EARWIG」の過去の因縁
- 魔女の掟・魔女団
まるで続編があるかのような終わり方でしたが、続編はありません。
主人公のアーヤが可愛くない‥?
『アーヤと魔女』の主人公・アーヤは正直大人から見るとかわいいキャラではありません。
- 「アヤツル」という名のとおりズルい性格で、他人を自分の思い通りにできると思っている
- 大人と会話をする時の演じるような態度
- 突然魔女の家に引き取られても落ち込むことのない強気な性格
こういった性格の主人公が挫折を経て成長する物語であれば、多少は感情移入もできます。
ただ『アーヤと魔女』は83分という短めのストーリーなので、アーヤは大きな失敗もなく物語は終わってしまうのです。
感情移入できないキャラクターで可愛くもないとなると、アーヤが酷評されてしまうのも理解できます。
『アーヤと魔女』はなぜこうなってしまったのか?
ここまで、『アーヤと魔女』を酷評する理由を整理してみました。
私が初めて『アーヤと魔女』を見た時にも、正直同じような印象を受けてしまいました。
ここからは、『アーヤと魔女』を擁護すべく、裏話もご紹介します。
スタジオジブリ初の3DCG作品
『アーヤと魔女』はスタジオジブリが初めて完全3DCG作品として創り出した挑戦的な作品です。
新しいことにチャレンジする宮崎吾朗監督のスタンスは素直に素晴らしいと思います。
キャラクターの髪型が明らかにクレイアニメーションっぽい感じ等、リアルさを追求したわけではないことも理解できます。
リアルさを追求しなかったからこそ、大袈裟で面白い演技も実現できていました。
このクオリティが高ければ言うことはなかったのですが、今後レベルアップした作品を期待しましょう。
ちなみにですが、『アーヤと魔女』の製作期間は一部が『君たちはどう生きるか』の製作期間と重なっています。
これまでスタジオジブリを支えてきた主要スタッフは『君たちはどう生きるか』に参加しています。
『アーヤと魔女』が手書きアニメーションを望んだとしても、そもそもスタッフを集めるのが難しかったという背景もあるのかもしれませんね(こういった噂もあります)
実は原作に忠実なストーリー展開
- 話がこじんまりとしている
- 中途半端に物語が終わる
- アーヤが可愛くない
こういった酷評もある『アーヤと魔女』ですが、実はこの設定はほぼ原作どおりです。
むしろ宮崎吾朗監督はバンドの設定を追加するなど、新しい魅力を生み出しています。
原作『アーヤと魔女』は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズが亡くなる直前に残された作品でした。
本来は後で手を入れる予定だった原稿が「これはそのまま出版しても良い」と判断されたのです。
ある程度完成した作品ではあるものの、当初のダイアナさんの構想から見ると「未完」の作品というわけです。
この未完の作品をあえて原作に選んだのは、企画の宮崎駿や宮崎吾朗監督が『アーヤと魔女』に魅力を感じたからでしょう。
- アーヤの生きていくうえでのしたたかさ
- アーヤのへこたれない心
- アーヤの「負けてたまるか」という力強さ
こういった魅力を描きたかったと実際に宮崎吾朗監督や宮崎駿監督も語っているのです。
一見物足りなさを感じるストーリーではありましたが、確かに子ども達を励ますためには良い作品です。
こうした背景も知ったうえで見ると、新たな発見もありそうですね。
宮崎駿の『アーヤと魔女』への反応
『アーヤと魔女』の監督は宮崎吾朗監督ですが、企画者は宮崎駿です。
要するに『アーヤと魔女』の原作を持ち込んで「映画にしたい」と言い出したのは宮崎駿監督というわけです。
他人の作品をめったに褒めない宮崎駿監督ですが、この『アーヤと魔女』については大絶賛しています。
「本当に手放しに褒めたいぐらいあれを作るのは大変だったと思う」
「元の作品が持っているエネルギーをちゃんと伝えている」
と文句なしに大絶賛しているのです(ここまで褒めるのは本当に珍しい‥笑)
アーヤの心情を描いて欲しいという宮崎駿監督の意図を、うまく宮崎吾朗監督が形にしたということでしょう。
実際のインタビューもYoutubeで公開されていますので、ぜひご覧ください。