『君たちはどう生きるか』の評価は、公開直後から賛否両論がネット上で巻き起こっています。
「宮崎駿の集大成」と大絶賛する声もあれば、「わけがわからない」「つまらない」と酷評する声があるのも事実です。
当記事では、『君たちはどう生きるか』が酷評される理由について考えてみます。
参考になれば嬉しいです。
- スタジオジブリから徒歩圏内の小金井市在住のジブリオタク
- 好きな場所は三鷹の森ジブリ美術館
- 最も好きな作品は「風の谷のナウシカ」
当記事は軽微なネタバレを含みますのでご注意ください。
筆者自身は『君たちはどう生きるか』は面白いと思っています。
私が初日に見た感想は以下の記事で綴っていますので、ぜひこちらもご覧ください。
『君たちはどう生きるか』のあらすじをがっつり解説したものは以下をご覧ください。
【酷評】『君たちはどう生きるか』がつまらないと言われる理由
個人的には『君たちはどう生きるか』は最高の作品と思っています。
ただ、『君たちはどう生きるか』が多くの人に酷評されているのも、仕方ないことと捉えています。
『君たちはどう生きるか』がつまらないと評価されても仕方ないと考える理由は以下のとおりです。
- 「タイパ時代」に適合していない作品
- ジブリ自身が儲けるつもりがない
- 「宣伝なし」が誤った期待を生んだ可能性
順番に解説します。
「タイパ時代」に適合していない作品
宮崎駿監督の作風は、タイムパフォーマンスが重視される現代には適合できていません。
宮崎駿監督の作品には以下のような特徴があります。
宮崎駿監督の作品の特徴
- 起承転結で構成されない、複雑なストーリー
- 説明的なセリフは省略され、アニメーションの動きで表現する
- 1度見ても理解できない。何度も見ることで新たな発見が得られる
要するに多くは語らず、一見すると分かりにくい作りになっているのです。
言葉では語られない宮崎駿監督の真意を考察することが、宮崎駿監督作品の楽しみ方の一つなのですが、これは時代に合っていないのでしょう。
タイムパフォーマンスが重視される現代においては、わかりやすくシンプルな作品が好まれます。
サブスクで多くの映画を見ることが出来る一方で、1つ1つの作品は倍速で視聴されることも増えているそうです。
2020年頃には「ファスト映画」も問題になりましたよね。
こうした時代の変化を受けて、映画の作り方も変わってきています。
分かりやすい例として、近年大ヒットしている『鬼滅の刃』の表現方法を紹介しましょう。
『鬼滅の刃』は、特に説明的なセリフや心理セリフが多い作品です。
主人公の炭次郎は緊迫した戦いの中でも、逐一状況をセリフ(心理セリフ)で教えてくれます。
「鼓膜がやぶれた・・!」「息が苦しい・・」等々、セルフ実況と呼べるほどにしっかりと説明しているのです。
こうしたセルフ実況はもちろん、『鬼滅の刃』の面白さの一つでもあります。
ただ実はこうして丁寧に説明されることで、倍速視聴でも見やすい「時代に合った作品」にもなっているのです。
(『鬼滅の刃』がどこまで倍速を意識していたか不明ですが・・・)
このように、近年は丁寧に説明される分かりやすいアニメーションが増えてきました。
そして大衆も、分かりやすいアニメに慣れ、分かりやすいアニメを好むようになってきたのです。
では宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』はどうでしょうか。
宮崎駿監督の作品は「絵で語る」ことが多く、説明的なセリフは省略される傾向にあります。
『君たちはどう生きるか』もその例外ではありません。
映画の冒頭、屋敷に引っ越してきたばかりの眞人の描写がその最たる例でしょう。
眞人は屋敷に引っ越してきてからしばらくの間、ほとんど言葉を発することはありませんでした。
「お母さんが亡くなって悲しい」「どうして父さんは再婚するんだ」等々、心理描写があってもいいところ、一切セリフは無いのです。
宮崎駿監督は眞人の心理を、「無言」の態度や表情、行動によって表現します。
このシーン以外にも、『君たちはどう生きるか』では観客に向けた説明的なセリフはほとんどありません。
観客はその画面に目を凝らし、キャラクターの心理や世界観、宮崎駿監督の意図を読み取る必要があるのです。
1度見て理解できることなど稀で、何度も繰り返し見てようやく理解できる作品かもしれません。
言ってしまえば、究極に不親切な作品です(笑)
過去の様々な作品のインタビューでも宮崎駿監督は「解釈は観客に委ねる」「受け止め方は人によってそれぞれ」という趣旨の発言を繰り返しています。
要するに宮崎駿監督は作品の中に「1つの答え」を用意しているわけでもないのです。
だからこそスタジオジブリ作品は考察が盛り上がるのですが、このスタンスは近年の分かりやすいアニメとは真逆です。
特に宮崎駿監督作品は説明が省略されるだけでなく、物語の流れも起承転結で進みません。
様々な要素が2時間ほどの時間に凝縮されるため、さらに分かりにくい物語となっているのです。
1度で理解できるシンプルで丁寧な作品を期待している方にとっては、最低の作品に見えても仕方ありません。
ファスト映画や倍速視聴の需要が高まってる現代においては、1度で理解できない宮崎駿作品は受け入れられないよなあ・・と思いました。
『君たちはどう生きるか』の中でも最も不思議な異世界の謎について、以下の記事で考察しています。
異世界の正体について ①地獄説 ②スタジオジブリ説 ③理想郷説 ④鳥かご説 の4つの視点で考察していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
ジブリ自身が儲けるつもりがない
『君たちはどう生きるか』では、製作委員会方式が取られていません。
つまり、『君たちはどう生きるか』はスタジオジブリ1社のお金だけで作られているのです。
これまでは電通や日本テレビをはじめ、様々な企業の出資を受けて制作していました。
出資を受けていた以上、一定の観客を呼び、儲けを生む責任が伴っていたわけです。
これが今回、『君たちはどう生きるか』では全てがスタジオジブリの責任となります。
誰からも口出しを受けずに、宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーが好きなように作ることができたわけです。
もしも儲ける必要があったなら、時代の流れを分析して、大衆に向けた作品に仕上げていたかもしれません。
ただ今回はそうではありません。
誰に酷評されても構わないので、「好きなように作る」という意思が感じられます。
そもそも大衆の顔色を伺って作っていないので、「つまらない」と感じる人が出てきても当然だというわけです。
「宣伝なし」で誤った期待を生んだ可能性
「宣伝なし」により、『君たちはどう生きるか』の詳細は公開日まで一切不明の状態でした。
そのため、公開日までには様々な憶測も生まれました。
- 実はその中身は「ナウシカ2」なのではないか
- 詳細を隠すには何か大きな理由があるはずだ
もしも『君たちはどう生きるか』が「ナウシカ2」で、ナウシカがそのまま登場するなら、確かに予告は大きなネタバレになってしまいます。(結果的には「ナウシカ2」ではないのですが)
こうした憶測で誤った期待を持っていた方には、『君たちはどう生きるか』は期待外れなのかもしれません。
『君たちはどう生きるか』はつまらないのか
ここまで『君たちはどう生きるか』がつまらないと言われる理由を考えてみました。
いろいろと列挙したものの、「面白い」「つまらない」というのはあくまでも個人の感覚です。
個人的には『君たちはどう生きるか』は面白いと感じました。
「宮崎駿監督が宮崎駿らしい作品を作ってくれた!」と嬉しい気持ちになりました。
以下の記事では、私自身の感想を詳細に語っていますので、ぜひこちらも読んでいただけると嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
『君たちはどう生きるか』の記事執筆における参考書籍
まつぼくらぶでは『君たちはどう生きるか』の記事を執筆するにあたり、主に以下の書籍を参考にしています。
- スタジオジブリ絵コンテ全集23 君たちはどう生きるか(徳間書店)
- ジ・アート・オブ 君たちはどう生きるか(徳間書店)
- 君たちはどう生きるか 映画 ガイドブック(東宝)
- スタジオジブリ物語(集英社新書)
- SWITCH Vol.41 No.9 特集 ジブリをめぐる冒険(SWITCH PUBLISHING)
- 失われたものたちの本(創元推理文庫)
- スタジオジブリ絵コンテ全集23 君たちはどう生きるか
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『君たちはどう生きるか』の設計図とも言える絵コンテです。
さりげない宮崎駿監督の補足書きが、考察の重要なヒントとなります。
ポチップ - ジ・アート・オブ 君たちはどう生きるか
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イメージボードやアフレコ台本等、制作時の資料が多数掲載されています。
スタッフのインタビューも掲載されています。
ポチップ - 君たちはどう生きるか 映画 ガイドブック
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キャストのインタビューが豊富に掲載されている貴重な資料です。
※定価(税込1,320円)で購入するならジブリ美術館オンラインショップがおすすめです。
- スタジオジブリ物語(集英社新書)
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鈴木敏夫プロデューサーがスタジオジブリ誕生から『君たちはどう生きるか』の制作までを振り返ります。
『君たちはどう生きるか』公開前に『君たちはどう生きるか』について触れられた貴重な1冊です。
- SWITCH 9 SEP.2023 VOL.41 NO9(SWITCH PUBLISHING)
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鈴木敏夫プロデューサーやキャスト、スタッフが『君たちはどう生きるか』を語っています。
公開された情報が少ない『君たちはどう生きるか』にとって貴重なインタビューが掲載されています。
ポチップ - 失われたものたちの本(創元推理文庫)
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『君たちはどう生きるか』の原作ともいえるファンタジー小説です。
ストーリーの骨子に共通点が多く、『君たちはどう生きるか』を読み取るうえでも参考になります。
なお、明確には「原作にはしていない」と語られており、クレジットはされていません。
ポチップ
なお、作品の画像はスタジオジブリ公式サイトから無償提供されている場面写真を使用しております。